頭のおかしい女

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

GWに生駒山に長男と登った。
4歳になったし行けるだろうと思い、気軽にハイキングすることにした。
天気も良かったし絶好のハイキング日和だった。

石切駅から2人でゆっくり上り始めた。
こういうのもたまにはいいな~と思いつつ、山道に入っていくと前からハイキング姿の綺麗な女性が下ってきた。

オレは「こんにちわ」と言うと向こうも、笑顔で会釈してくれた。
息子は「知ってる人?」って無邪気に聞いてきたので、山ではこうするものなんだって教えた。
と、その時通り過ぎて行った女性が、凄い勢いでオレを抜かして行ったかと思うと、長男に駆け寄り、ガシッと抱きあげ山道を走り出した。

長男は何が起こったかわからず「とうちゃ~ん!」と叫んだが、女は凄い勢いで山道を登っていった。

オレは親の直感でヤバイと思い、追いかけた。
しかし、日頃の運動不足が祟ってか、脚がなかなか思うように動かない、女は凄い勢いで登っていく。

長男が泣き顔になるのがわかった。
オレはここで長男を見失うと一生合えないんじゃないかと思い、死ぬ気・・いや子を持つ人ならわかると思うが死んでもいいから、息子を取り返そうと思い走った。

女はなにか叫んでいた。

「ひしきえみしのゆりえの~」

覚えてる限りではこんな感じだった。
長男は完全に泣いていた。
オレは胸が締め付けられる思いだった。

しかし、人間必死になるとなんとかなるもので、手を伸ばせば長男に届くところまできた。
もう心臓はバクバクしてるし、脚はガクガクしてきた。
喉はカラカラだった。

女が振り返り、距離を確かめてきたが、オレがすぐそこにいるのが分るとスピードを上げようとした。
ここで引き離されると二度と追いつけないのが分ったので、オレは全身をバネにしてタックルした。これくらいなら長男も軽傷で済むはずだと考えた上でのことだ。

ガクン!
タックルは成功した。
女は前のめりに倒れ、長男は少し前に放り出された。
オレはすかさず、女の上にマウントポジションを取ると、髪の毛をつかみ上げ「どういうつもりだ」って言おうとしたが、声が出ず声の代わりに女の顔面にゲロを吐いてしまった。

女は「きゃああああああああ」と叫び暴れまわったが、後のまつりだ。
オレは最後の一滴まで女にぶちまけると、女を放して長男に駆け寄った。
長男は泣くのをやめて「大丈夫?」って聞いてきた。
オレは笑顔で「大丈夫だ」と答えた。

それから、もう一度女に近寄ると、自らもゲロを吐いていた。
オレは近寄るのも嫌だったが、首根っこをつかまえて「どういうつもりだ」って言うと「あいさつしなかったから・・・」と。

「はあ?」

「あいさつしなかったから、おしおきを・・・」

オレは度肝を抜かれた、長男が「こんにちわ」って言わなかったから折檻(せっかん)するつもりだったっと言うんだ。
しかし、これはやり過ぎだ!って言うと「あなたもやり過ぎだ!」と逆切れされたので、オレはカッとなってゲロまみれの顔にビンタを一発くらわしてやった。

女はワ~と泣きながら、山を降りていった。
その時にオレは見てしまった。
彼女の背中の首元に、「この人物は皆様にご迷惑をおかけするかもしれません。もし、なにかあった時は下記までご連絡願います。OOOO-OOOO××」

連絡しようとしたが、辞めた。
長男に「怖くなかったか?」と聞くと、「父ちゃん来たから怖くなかった」と答えやがった。
オレは長男を抱きしめふたりで生駒山を登りはじめた。

全て脚色なしの実話です。

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