そいつと結婚しなくてよかった

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

母が若かった頃のお見合いの話。

当時の女は卒業→嫁入りコースが一般的で、就職した母は「家庭の事情ですか?お可哀相に」などと言われていた。
そして、やはり可哀相と思ったのか、親類が速攻で縁談を持ってきた。

相手は資産家だが40近いブ男で、母は最初嫌がった。
しかし、小娘だった母から見ても、多少世間知らずなのを除けば、ノリの良い明るい性格の男であり、母は結婚する事にした。
そして、同性の同僚達と独身時代の思い出作りとして、泊まりがけで遊びに出掛けた。

さて、琵琶湖で日焼けした母が家に帰ると、祖父も祖母もいない。
家内は静まり返っている。
何かがおかしい・・・。
そう思ったとたん、家の電話がけたたましく鳴り出した。
思わず受話器を取ると無言で切れ、振り向くとヤツレた顔の祖父が玄関から覗いていた。

話を聞くと、母が出掛けた夜、見合い相手の男から電話があった。
祖母が友達と泊まりがけで出掛けている旨を告げると切れた。
そして真夜中に再びベルが鳴った。
祖母が出ると男だった。

深夜3時を過ぎての電話に何事かと思った祖母に、男は自分の両親への恨み言を述べ出した。
そして電話は切れた。

起き出した祖父が廊下に出て来るとまた鳴った。
今度は祖父が出た。
やはり男が、自分の両親への恨みを述べる。
不機嫌になった祖父が、後日改めて出直すよう諭すと突如発狂。
自分が学校でも会社でも孤立して、すぐ辞めてしまうのは両親が悪い。
女性と付き合えないのも親が邪魔するせい。
自分は今発熱している。
咳も出た。
なのに婚約者は遊びに出掛けている。
人間の屑だ。
こんな冷たい女と結婚できない・・・など。
そして泣きわめき、斧でブチ殺してやる!とまで。

結局、明け方に通報。
恥さらしになるが、近所の安全のため回覧版を回した。
しかし警察は、「男は風邪で寝込んでおり、家族が電話などしていないと言っている」で終了。
警戒しつつ、近所に避難していたそうだ。
結局この縁談は流れ、母は父と出会って結婚した。

近年、その資産家の家でボヤが発生するまで、その男の存在は知られておらず、付近の住民は、老夫婦2人暮らしだと思っていたらしい。
60過ぎた息子を、どんな思いで養い続けているのかと思うとほんのり。

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