伊集院光が昔アルバイトしてたスーパーがある団地での話。
今から十数年前のことになるが、当時小学校低学年だった俺は友達数人と団地内で遊んでいた。
缶蹴りだったか、ドロケイだったかなんだか詳細は忘れたが、まあそんなことして遊んでいたんだよ。
そうして遊んでいたら俺たちの方に向かって一人の婆さんがとぼとぼ歩いて近づいてきた。
そして唐突に俺らに話しかけてくる。
婆さん:「あなた達、楽しそうねぇ。おうちは近いのかしら?私お散歩してたらおうちがわからなくなっちゃったの。あなた達、私のおうちどこだか知らないかしら?」
完全にボケ老人だった・・・。
俺は糞ガキで遊びに夢中だったし、あんまり関わりたくなかったので「いやあ、知らないっすねえ。ゆっくり思い出せば意外といけるんじゃないっすか?」とか言ってスルー決め込もうとしたら、親が宗教やってて純真で親切なK君が「俺たちで、このおばあちゃんの家探してやろうぜ!だってこの団地に住んでる人間はみんな仲間じゃんか!」とか言い出して、結局俺らはその婆さんの家探しを手伝う羽目になった。
とりあえず団地内を歩いてるおばちゃんとかに、この婆さんの家がどこだか知らないか聞いて回ってみた。
そうしたら意外にも、婆さんの身元をしってるおばさんにはすぐぶつかった。
おばさん:「あら、○○さんのところのおばあさんじゃない。○○さんの家なら×号棟の■階よ。でも今の時間だと息子さん仕事で留守じゃないかしら?○○さんのおじいちゃんが亡くなってから息子さんと二人暮らしのはずだから。多分誰も居ないはずよ。」
そのおばさんに案内されて婆さんの家まで行ってみたが、案の定留守で鍵がかかってた。
おばさんが、婆さんに「鍵持ってないの?」とか聞いていたが婆さんは「私のおうちの鍵はお父さんがもっていますよ。」とかアルツな返答するばかりで要領を得ない。
親が宗教やってるK君の家も同じ×号棟だったので、K君が母親呼んできた。
で、寒いし、婆さんを外でほっぽらかしにしておけないと言うことで、婆さんの家に張り紙をして、婆さんの息子が帰ってくるまでK君の家で預かることにした。
夕焼けチャイムが鳴るまで時間があったので俺たちはそのまま婆さんごとK君の家で遊ぶことにした。
K君の家は親が宗教やってるくせに、メガドライブが置いてあって俺らは「おそ松くん」とか「マジカルたるルートくん」とか糞ゲーを小学生なりに楽しんでいた。
しかし、糞ゲーしていたら・・・なんか糞臭い。
その場にいたFが、「おいK、おそ松君が糞ゲーすぎて、本当に糞の臭いしてきたぞ!」とか言い出してKが切れて。
「はぁ!?おそ松君は糞ゲーじゃねーよ!お前がファミコンしか持ってないからっていちゃもんつけんなら家でファミコンやってろよ!」とか言い返すが確かに糞くさい・・・。
まあ真相は婆さんが漏らしてたわけですが、そっしてここからが地獄の始まり。
K君の母親が婆さんを着替えさせようとして近づくが、さっきまで大人しかった婆さんが人が変わったような様子で暴れだす。
婆さん:「ヒィィイイイイ!!ヒィィイイイイ!!いやだあああ!助けてええ!ヒィィイイイイィィィ!!」
しかも動物みたいな、赤ん坊みたいな、とにかくやたらと不快な声でわめき続ける。
K母が風呂場に連れて行こうとするが、婆さんが暴れて漏れた部屋が部屋に散らかる。
おろおろするしかない俺ら・・・。
糞が飛び散って食えなくなったおやつ・・・。
本当に糞ゲーと化したメガドライブとおそ松君・・・。
泣き出すK君・・・。
俺は糞がつくのが嫌でベランダに避難したが、逃げ遅れたFにも糞は飛び散っていた。
その後、婆さんの叫び声を聞きつけた近所の人が糞まみれになりながら取り押さえて風呂場に連れ込むまでこの地獄は続いた。
しかし、やっと地獄から開放されると思ったのもつかの間だった。
近所の人で、婆さんと糞をどうやって対処しようかと途方にくれている所に、一人のおっさんが現われた。
そう、この婆さんの息子だ、その息子は「すいません、お袋がご迷惑なってるって張り紙よんできたんですけど」とか、この惨状をみながらぬけぬけと抜かしやがる。
だけどもう、一同文句をいう気力も無いので婆さんをとにかく引き取ってもらうことに。
しかし息子を引き合わせると婆さんがより一層怯える、そして叫ぶ。
そして叫ぶ婆さんに息子が恫喝、「てめえ!ババア!!死にぞこ無いの分際でふらふら歩き回るんじゃねえ!あと自分で撒き散らした糞は自分で掃除しておけよ!掃除終わるまで帰ってくるんじゃねえぞ!」とか、わけの分から無いこと言い出す始末。
K母も近所の連中も唖然。
K母が半泣きで「掃除は良いから、早くつれて帰ってください。」
息子が「へへへっ、すいませんね。じゃあお言葉に甘えて失礼しますね。」ってなやり取りのあと力ずくで婆さんを連れ帰った。
ちなみに、後で聞いた話だとこの息子、本当は仕事はしてなくてパチンコに行ってたらしい。
K君の家はそのあと近所の人に手伝って片付けられたそうだ。
あと、K君はその日Fの家に泊まったらしい。
俺にとっての地獄はここで終わり。
しかし、その婆さんは自分の家も忘れるほどのアルツのくせにK君の家はしっかり覚えていたらしく、週に2~3かい訪ねてくるようになったという。
もちろんあんなことがあったので家に上げるようなことはしなかったが、婆さんはかなりしつこく呼び鈴を押して「ここは私のおうちよーー!」とか家の前で叫んだりかなりの大迷惑だったそうだ。
結局この訪問は婆さんが死ぬまでの間、期間にして半年チョイ続いた。