私の実家はとある地方都市にあります。
昔は色々と栄えた町ではありますが、人口の減少や産業の衰退などで、県下でも第二から第三の都市へと評価が下がってしまった町です。
私の実家はその町の中でも中心に近い場所にあり、それなりに高層?とも呼べるビルが立ち並んでいます。
その高いビルの中に、県下でもそれなりに有名だった自殺の名所があります。
だった、と過去形なのは一昨年から昨年にかけて取り壊してしまった為。
今は更地になっている・・・。
私の以前付き合っていた恋人もその場所について色々と因縁めいた話を聞いたので、ぜひ聞いていただけたらと思います。
子供の頃からそこは、私のとってとても怖い場所でした。
何が怖いって、人が飛び降りる直前の姿を1回、その人は1時間後に飛び降りて亡くなり、その時とは別に、また別の人が飛び降りてぐちゃぐちゃになった姿を見ているからです。
飛び降りたときのあの大きな音は何度聞いたか覚えていません。
私にとってあのビルは、人が死ぬビルとして小さい頃から認知されていたのです。
そのビルの、側道に位置する通りにはいつもお菓子やら花やらが添えてあり、夏であっても寒気を感じるような気分にさせられたものです。
親や妹は決してあのビルに近寄りません。
理由を聞くと、見えるから、だそうで・・・。
私が小学生の頃、近所にJさんと言うふたつ年上のお兄さんがいました。
そのお兄さんとは小学校4年までの付き合いでしたが、近くの公園で遊んだり、家にお邪魔してファミコンしたり、年齢差関係なく遊んでいました。
背が高くて、頭がよくて、かっこよくて・・・。
思い出補正がかかっているのかもしれませんが、そんな感じの人だったと思います。
ぶっちゃけ、親から彼の話をされるまですっかり忘れていましたがw
さて、例のビルですが、「中のテナントも撤退して、予定候補となっていた誘致の話もなくなって、内部はすっかり廃ビルに近い状態になったのよ~で、とうとう来月取り壊しされるらしいわよ。」と、母から聞いたのが取り壊される直前、私が実家で犬と裸で戯れていたときのこと。
十年近く前まではビアガーデンがあったり、中にパブがあったりで人の出入りも自由にでき、そのせいか自殺者も後を絶たなかった。
「あそこからなら楽に死ねる・・・」と無断で入り込んで、まで飛び降りるような迷惑施設。
ぶっ壊して駐車場でもマンションでも立てりゃいいじゃん・・・的に私も考えていたので、正直ほっとしました。
いい思い出、全くないですしね。
忘れてしまいたい思い出ばかりで・・・。
適当に返事をする私に母は続けました。
母:「そういえば、J君って覚えてる?小さい頃一緒に遊んだでしょう?あの子も2年前にあそこから飛び降りたんだって」
私:「わたしも見たんだけど・・・・すぐ横に彼女さんかね?座り込んで泣きじゃくって・・・・本当、見ていられなかった」
私:「しかもその彼女さん、近くのパチンコ屋の屋上から飛び降りたんだけどね、2度も。それでも死に切れなかったみたいよ。今は入院してるらしいけど・・・・」
涙が流れました。
翌朝、花を持ってあのビルの入り口に行きました。
何本かの花と、お菓子と、色あせて見えない写真が飾ってありました。
私が知っているだけでも15人以上、人に言わせれば30人以上の人が死んでいる場所。
そこは夏だというのに、冷たい空気が流れていました。
今、書き込みをしている部屋から見えるその場所は更地になり、1等地にも関わらず買い手すらついていません。
取り壊しの工事は怪我人が続出し、延期に延期を重ねて1年越しの工事となりました。
過去の戦争において、焼夷弾で焼きだされた人の死体置き場がそのビルにあったそうです。
そういった人たちの無念が、人を死に追いやり、引きずり込んでいるのでしょうか。