付け回す癖

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

三年程前に、一人暮らしをしていたマンションで怖い体験をした。
7階建てで1フロアに5部屋というマンション。
俺は403号室に住んでいた。
間取りは2DK。

玄関を入ってすぐ右側の部屋を俺は寝室に使っていた。
仕事から帰ってきて寝るまでの時間は、ほとんどダイニングでPCを使ったり、TVを見たりして過ごしていた。
俺は飲食店で働いてるから、自宅に帰るのは早くても午前1時過ぎくらい。

マンションの周りは住宅街で、少し歩けば大通りもある。
静かだけど、深夜でも特別寂しいという雰囲気ではない。
帰宅してからの俺の行動パターンは大抵こんな感じ。

寝室で寝巻きに着替える→TVとPC起動→飯食う→風呂→3時ごろ就寝毎晩寝床に入ってウトウトしていると、部屋の窓の向こうから「ガガーッ」という、エレベーターの開く音がする。
そして「コツコツコツ・・・」という足音が聞こえる。
これはほとんど毎晩だった。
少し深夜にしては足音がデカイかな?と少し気にはなっていたけど、次の日の朝にはそんな事忘れていた。

そんな感じで、特に何の問題もない毎日を送っていたんだ。
そしてついにその日が来てしまった。

俺は、いつものように深夜3時過ぎに寝室のベッドに入っていた。
また、エレベーターの開く音が聞こえた。

「コツコツコツ・・・」

足音が聞こえた。

俺の部屋の窓には厚いカーテンがしてあるので、シルエットは見えないけど、足音で、自分の部屋を通り過ぎたのがわかった。
恐らくハイヒールを穿いた女性で、「404号室か405号室の住人だろうな・・」と何となく考えていた。

何だか寝付けなかったので、TVをつけてボケーっとしてると、こんな事を思った。

「そういえば、足音は聞こえるのにドアを開けたり鍵を閉めたりするときの音って聞こえないよなぁ・・」

そんなに作りがしっかりしたマンションでもないし、隣近所のドアの開け閉めや鍵の開閉の音はいつも聞こえていた。
あんまり気にして聞いていた事はないけど、今回に限っては深夜なので「絶対に聞こえるはずなのにな・・」と少し気になってしまった。

深夜にも関わらず、結構な足音を出す女だ。
ドアや鍵の開け閉めに気を使うとも思えない。
そこまで考えてしまっていた。

TVを消して外の気配に集中していた。
シーンとしていて、たまに外を走る車やバイクの音が響くだけだった。
自分でも少しバカらしくなってきて、すぐにTVを付けた。

わざわざ人んちのドアの開く音なんか意識しないよな・・って自分で呆れた。
何か目が冴えて眠れなくなったから、タバコを取り出して窓の方に向かった。
カーテンを開けて、磨りガラスになっている窓の鍵を開けて、タバコに火を付けた。

いつもはキッチンの換気扇の下で吸うんだけど、この日は就寝前という事もあってキッチンまで行くのが面倒臭かったんだと思う。
風の流れで煙が部屋に逆流してきたので、網戸を開けてタバコを持った手を外に出して、口元も窓の外に出すような形で煙を吐いていた。

すると、フッと視界に何か不自然な物が映った・・・。

さっきまで死角になっていて見えなかった窓の外に、髪の長い女が立っていた。
耳を壁に付けたまま顔を横に向けていた。
ベージュか白のコートを着ていたと思う。
俺は心臓が止まりそうなくらいびっくりした。

タバコを手に持ったまま、窓を閉めるのも忘れて、一目散にダイニングへ向かい、震える手で警察にTELをした。

5分後くらいにドアの向こうで男数人の野太い声がしたので、警官が到着したんだと気付いた。
警官に事の経緯を説明している途中に、女は他の警官に連れられて行った。
マンションの住人、向かいのマンションの住人も何人か野次馬で見ていて、その日は一睡も出来なかった。

後日、更に気持ちの悪い事実を知る事になった。

警察からは、「後日連絡します」と言われていたが、一切連絡はなかった。
しかし、休日に出かけようとマンションのロビーに行くと、管理人さんから声を掛けられた。
どうやら管理人さんに警察からその女についての連絡があったようだ。

管理人さんはマンションの住人や近所の人からも情報を仕入れていたようで、その女の詳細を聞かせてくれたが、どうやら近所に母親と思われる老婆と二人で住んでいるキチガイのおばさんらしく、気になったものを付け回す癖があるらしい。

近所では深夜に徘徊している姿が目撃されていて、警察にも何度か通報されていたらしい。
向かいのマンションの住人の話によると、深夜にその女が俺の部屋の窓の近くに立っているのを見たらしいく、明るくなってもまだ居たので不審に思っていたらしい。

俺の聞いていた足音はそのおばさんのもので間違いなかったようだ・・・。
ということは・・・俺は、一枚壁を隔てた向こうにオバハンが居る状態で毎晩眠っていたんだ・・・。

それに気付いた瞬間、ササーっっと血の気が引いていったのを覚えている。
その日から俺は実家に帰って、一ヶ月後に友人をたくさん呼んで手伝ってもらって引越しをした。

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