うちのじいさんの話。(明治の終わりの生まれ)
じいさんの父方の家と母方の家は、かなりでかい家だったらしい。
で、じいさん兄が父方を継ぎ、跡継ぎの途絶えそうな母方を、次男のじいさんが継ぐという話になっていた。
だがじいさんは、東京の学校に来て、そのまま分家のいとこだった許婚(いひなづけ)のばぁさんと結婚し、田舎との関わりを一切絶ってしまったんだそうな。
そんなで俺はずっと都会暮らしで、田んぼや護岸工事されてない川なんか見たことなかったから、じいさんの小さいころ育った母方の大きな家と、自然に溢れた場所でのやんちゃを楽しく聞いていた。
蛇をつかまえた話、家よりもでかい木から落ちて、納屋の屋根に穴を開けた話、刈り取った後の稲穂に火をつけて怒られた話、中庭をかこむ回り廊下をぞうきんがけしてた女中さんを、池に突き落とした話など・・・。
じいさんは、跡継ぎということで甘やかされていたようだ。
で、俺は一度「そんなにいい所なら一度遊びに行きたい」と、じいさんにだだをこねたら黙られた。
それを怒られたと思った俺は、じいさんの昔話をせがむこともなくなった。
それから何年か経って、多分俺が中学の頃に、じいさんが腸の病気か何かで倒れた。
そのときに俺一人枕元に呼ばれ、じいさんは苦しそうに話した。
じいさん:「俺があの土地に戻らないのはな、××(じいさんの母方)の家が怖かったからなんだ。戻ったら俺はあの家を継がなきゃいけない」
以下じいさんが語った内容。
××の家にはやはり『開かずの間』があったようで、だけど家の構造からすると、他の部屋や物置部屋にかこまれた真ん中にあるが、扉が見つからない。
で、じいさんは天井裏から忍び込んで、その中を見てやろうと思い立ったらしい。
大工道具をかかえて蝋燭持って忍び込んで、迷いながらも目的の場所の上にたどりついて、そっと縄にくくった蝋燭を、その暗い部屋に垂らして下を覗き込んだ。
すると、たたんだぼろ布の上に、人の頭の骨を乗せたモノが、部屋に等間隔で並んでいた。
じいさんは急いで蝋燭を引き上げ、天井裏から逃げ帰った!
その後に、『東京の学校に行きたい』と無理を言って、××の家から逃げたと、そう話した。
じいさん:「俺はあんな因果まで背負い込めないから逃げた。だから戻れない」
そう話すとまた黙り込んだので、俺は部屋を出た。
それがじいさんが話してくれた、最後の田舎の話だ。
だが、じいさんは腸の病気から持ち直し、90近くで老衰で亡くなった。
因果から逃げ切ったせいかもしれない。
補足。
・誰の骨とかは全然わからん。
家を継ぐ時に教えてもらえたのかも。
・稲穂っていうか、わら山に火をつけたときは、何かこっぴどく折檻されたらしい。
本当に灸すえられただか、蔵に閉じ込められたか。
・母方の家は・・・どうなったか知らないんだ。
じいさんは九人兄弟だったらしいから、他の誰かが継いだかも知れない。
俺の知る限り、じいさんは他の血縁と交流は一切なかったから、そのへんは推測。
ひょっとしたら断絶してるのかも知れない。