仔猫と仔犬。
かなり前に遠方の従弟から聞いた話。
従弟は高校生なんだがYという小学以来の友人がいる。
騒がしくて落ち着きのない従弟と、しっかりしてるがあまり前に出ないYとで仲良くやってるそうだ。
高校1年の12月頃。
放課後二人でとりとめない話をしつつテストの予習してたら同じクラスのギャル系女子グループがキャイキャイ言いながら寄ってきたんだと。
いつもなら従弟はノリノリで「モテモテですことww」とか茶化すらしいんだが、この日はその前にYが慌てるように席を立って軽く後ずさった。
そしてYはいやに真剣な顔でこう言った。
『その黒いの、何処で?』
黒いのというのは女子の一人が身に付けているファータイプの高そうなマフラーの事だった。
女子Tは照れくさそうに誕生日に「おばあちゃんから貰った」と笑って妙に嬉しそうな態度だったそう。
その後Tが「一緒にクリスマスツリー見に行きませんか」とか告白した。
けどYは険しい顔をしたままでTに返事もせず急いで荷物を纏めて足早に教室を出ていった。
慌てて追い掛けてどういう事かと訊ねても「ごめん、今日は帰る」という以外だんまりで顔色を見ると物凄く真っ青だったそうだ。
翌日の朝学校に着くと三年のK先輩がYにイチャモンをつけて胸ぐらを掴んでた。
聞けば「人の彼女に手を出すとか良い度胸だ!生意気だ!」とかそんなの。
YもYで凄く険しい顔をして真っ青になってた。
ただ雰囲気が先輩に恐がってるんじゃなく先輩の腰の方に目がいってた。
とりあえず先生が来てくれたからその場は収まったもののYはHR終わったらすぐに早退してしまい、その態度は昨日のTへの反応とほぼ変わらなかった。
メールを入れても無視、電話を入れても無視。
今までこんなこと無かったのにって従弟は心配したが、そのまた翌日も顔色は悪いままだが律儀に出てきたそうだ。
大丈夫か?って訊いたら「まあ何とか」って反応で笑わないけどちょっと無理してるなって感じ。
んでK先輩は今度はTを連れてイチャモンつけてYを脅す。
ネクラだのオタクだのタマナシだの・・・罵詈雑言並べ立てて小突いたり蹴ったりしたから従弟が応戦しようたしたんだが、Yに必死に止められたらしい。
「絶対さわるな!」
・・ってそんな風に。
それが二週間程続いて堪忍袋がはち切れそうになった頃、それは唐突に終わった。
Tが轢き逃げ事故に巻き込まれ、後日Tの訃報が聞かされた。
従弟はYが葬儀を欠席する思ってたが、むしろ率先して出ようとしてた事にかなり驚いてた。
付き合ってる奴居るのに二股かけようとしたT。
失敗したら付き合ってた先輩を使ってけしかけてきた奴の葬儀・・・。
正直行きたくないだろうしね。
でもYはちゃんと身なり整えてちゃんと参加してた。
皆が座布団に座って読経も始まり、場が静まりかえった所で奇妙な事が起きた。
いつのまにか可愛い参列者、まだ両手に収まりそうな小さな黒猫が訪れてて、その後ろからそれよりも一回り大きな黒い仔犬が付いてきてた。
その子たちは各参列者の顔をジーっと見つめて時折、荷物にちょっかい出しを繰り返しては順々に歩いて来た。
従弟は犬猫大好きで手を伸ばした瞬間、Yに思いきり手首を掴まれた。
何事かと思ってYを見ると、かなり怯えた表情で顔を小さく横に振っていた。
Yは従弟家のシェパード可愛がってたから動物嫌いではない。
従弟としては意味分からなくて混乱してた。
「食べるのはおばあちゃんに嫌な事した奴だけだよ」
不意に目の前から男の声が聞こえてた。
前を向くと仔猫と仔犬がジーっと、ニマーっと見据えててそのままスーっと消えてしまった。
それを見た途端Yは従弟の手を引き一度葬儀場の外に出た。
整理の追い付かず初心霊現象に遭遇しテンパる従弟にYは静かに落ち着くように諭し、簡単に説明してくれた。
あの二匹は神様に近いが”善くない何か”で今回は報復をして回っている。
姿は仔猫と仔犬だが可愛いものじゃない・・・。
何が狙いか分からないし、素人のYには祓う技術が無いので従弟に障らせないだけで精一杯だったらしい。
Tについては障り(※さわり)方がマシな方で親御さんの方がもっとヤバイらしい。
※霊的な症状影響
従弟はYに霊感的なモノがあること自体初耳だった。
Yを0感だと思ってたからかなり驚いたし最初疑いもしたらしい。
けど一月も経たない内にTの母親は発狂して通行人を切りつける障害事件を起こし、警察からの檻付き病院。
父親も父親で原因不明の体調不良を起こし、身体中が腫れ上がり入院したのでその辺りは近寄りたくても近寄れない空気になったらしい。