父達の実家は山奥にある。
文字どおりの田舎の村なので、ある程度大きくなった子供にとっては退屈な場所だった。
特に不良気取りの少年達には・・・。
叔父が中学一年だったある日の放課後、同じ学校の三年生の杉田とその手下に捕まった。
杉田は制服を「ツッパリ」風に改造して学校内で幅をきかせている、正直関わりたくない奴ナンバーワンだった。
杉田達は叔父ともう二人捕まった生徒を連れ、裏山への道へ入って行った。
その先には古い墓場があり、十基ほどの墓と六体の地蔵が据えられていた。
なんだかすごく悪い予感がした。
杉田は手下から金属バットを受け取ると、捕まった一人に差し出した。
「あいつ気に食わねぇ」と杉田は地蔵の一体を指差し。
「首ぶっ飛ばせ」とだけ言った。
言われた少年は半泣きになり、「すみません、勘弁してくださいよ」と頭をペコペコ下げた。
それを見て手下どもが笑う。
捕まってる叔父ともう一人も真っ青になっていた。
杉田は何も言わず、じぃっと少年にガンをたれる。
地蔵も怖いが杉田も怖い。叔父もそう思ったという。
少年はよろよろと地蔵の前まで行くと、バットを構えた。
「やれ、やれ」
手下どもがヤジる。
意を結した少年がフルスイングする。
『カーン』
地蔵の首が藪の中へ飛んで行った。
「あーあ、やっちまったやっちまった。呪われるぞー」
手下のヤジについに少年がポロポロ涙を流す。
それ見て杉田が満足そうにニヤーっと笑う。
サドという奴だ。
叔父は尚更杉田が怖くなった。
「次、あれ」
叔父の隣にいた少年に、杉田が金属バットを渡す。
今度の少年は迷う事なく地蔵に向かった。どのみち仕方ないのだ。
しっかり構えて、フルスイング。
『ドッ』
しかし金属バットは地蔵の肩に当たり、衝撃で台座から落ちた。
「なにやってんだよー」
手下どもがヤジる。
叔父が地面に転がる地蔵を見ると、頭から落ちた地蔵の首は折れていた。
「何やってんだよ」
杉田が打ち損なった少年の足にケリを入れる。
ウッとうめいた少年はそのまま地面に転がる。
「最後、お前」
叔父の番だ。
「お前、野球部だよな?」
確かにその通りだった。
とは言え今はただの下っ端だが。
「あれ行け」
これまでの地蔵の倍はある一体を指差した。
台座の位置が他より低いので、頭に高さはそれほど変わらなかったが。
その地蔵を見た瞬間、叔父はイヤなかんじがした。
とんでもないことになる気がした。
「勘弁してください、勘弁してください」
杉田は無言でみぞおちにパンチを入れてきた。
それでも必死に踏ん張って。
「あれだけは、あれだけは勘弁してください」
「聞こえねぇ」
そう言う杉田の目はギラギラして、どんなことでもやりかねない怖さがあった。
諦めた叔父はゆっくり地蔵に近づいた。
間近で見ると、よりイヤなかんじが強まった。
「許してください、許してください」
口の中でつぶやきながら金属バットを振りかぶる。
飛ばす方向を見ると、視界の端に杉田がこっちを睨んでいるのが見える。
フルスイング。
『ゴッ』
瞬間、杉田の首に衝撃が走り、そのまま前のめりに倒れこんだ。
地蔵の首にはヒビ一つ入ってなかったという。