※この話は3回に分けて投稿しています。【その2】
そこでハッとして、幼児期に会ったフィンガーさんのことを思い出した。
つーか、それまでなぜかフィンガーさんのことをすっかり忘れていたんだ。
多分気を失って、実家で目が覚めた時にはもう忘れていたと思う。
じゃなきゃ、あんな体験、親に話してただろうし。
すでに長期休み中なので、俺は急いで実家に帰った。
それでオカンに○家のことを聞いてみたんだが、なんだがゴニョゴニョ言って、話が通じない。
それで仕方なく、先日あった事件のことと、フィンガーさんの話を全部した。
女の上半身の話では何寝言言ってるのって感じだったんだが、フィンガーさんの話に入ると、明らかにオカンの顔が強張った。
肩まで跳ねてたし。
話し終えると、しばらく沈黙していたオカンがやっと口を開いた。
○家で俺が倒れた後、散々な目にあったらしい。
最初は、俺が倒れたので、屋敷の人間は全員心配してくれた。
ところが、オカンがそういえばついさっき俺が変なことを言っていたと内容をこぼしたら自体は一変。
変な指を見たって言っていたと教えたら、屋敷の奥さんが慌ててどこかに走っていき、その後大騒ぎになった。
奥さんは、仕事中のはずの自分の旦那や爺ちゃんにまで電話して、すぐ帰ってくるようにと言った。
それが終わると、なんてことをしてくれたんだとオカンに詰め寄る。
息子が意識をなくしてるこんなときに、何意味不明のことを言ってるんだと、オカン大爆発。
叩いてもなにしても俺が起きないから、救急車を呼ぼうとしたら、「無駄だ」と止められたそうだ。
その後、物凄いスピードで帰ってきた○家の旦那たちがそろうと、オカンは仏間で家の人間に取り囲まれ、事情を説明されたそうだ。
○家には、仏間の隣にワラズマという部屋があるらしい。
なんでも何百年も前からあって、絶対に入ってはいけないんだとか。
ただ、いくつかある規則をきっちり守っていると、そのワラズマは、家に富と幸福をもたらすんだとさ。
たしかに○家は裕福だった。
屋敷は、結構田舎の山ん中にあるんだけど、大きな日本家屋の平屋で、大河ドラマとかに出てきそうな感じ。
で、幼い俺が、その入ってはいけない部屋に入ったっていうんだな。
で、オカンはますますキレた。
だって、仏間の隣に部屋なんてなかったっていうんだ。
オカンも子供の頃から○家に来ていたので、間違うはずがない。
仏間は四方を廊下で囲まれている。
廊下をはさんだ隣の部屋は、どこも普通の部屋。
そう言って怒ったら、よく思い出してみろって言われたそうだ。
廊下にある仏間の壁、不自然じゃないかってさ。
確認してみると、部屋の中から見る仏間の広さと、廊下からみた仏間の壁の広さがあきらかに合わない。
廊下の壁のほうが、やけに広かったらしい。
どうやらそのワラズマ、たしかに仏間の横にあり、四方を全て壁に囲まれているらしかった。
だからオカンはいままで気がつかなかったんだ。
でも、そんな部屋じゃ息子が入れるはずないじゃないかと言ったが、倒れる前に言っていた内容と、直後に壁に穴が開いていたのがその証拠とか言って、取り合ってくれなかったそうだ。
でも変だよな。
たしかに昔のこと過ぎて細かい記憶はあやふやだけど、俺がフィンガーさんを見つけた部屋は普通の部屋だったぞ?
日の光が入って明るいかったし、内装も普通。
そして、ちゃんと襖があって、たしか開いていたはずだ。
じゃなきゃ、いくら俺が小さくても、他人の家の一度も入ったことがない閉まった部屋に入り込んで寝たりなんてしない。
ともかく、これから忙しいからとか言われ、オカンと俺は屋敷を放り出されたらしい。
まあ、実際は隣町の大きな病院まで送ってくれて、お詫びと見舞いだとかで、なんかたくさん物を持たされたらしいけど。
他のことで手一杯で、帰ってきてから持たされた物を調べてみたら、鏡とか、数珠だとか、灰とか、変なものも混じってたらしい。
一番驚いたのは、底に現金が入ったパンパンの茶封筒が入っていたことだそうだ。
困って翌日電話すると「迷惑をかけたからそのお詫びだ」って言われたみたい。
意味不明な物は、ワラズマを開けちゃった人には、あれを贈るのがしきたりとのこと。
そこまでしてくれなくても、俺は病院で大丈夫と言われ、いまはもう元気に遊んでいると話したら、驚かれたそうだ。
オカンに、いまその○家の人たちはどうしてるのか尋ねたら、苦い顔して、しばらくしてポソッと事業に失敗して一家離散したって言われた。
「ちょ、え、それって俺のせい?」って言ったらマッハで頭をはたかれて「そんなわけあるか」と怒られた。
さすがにオカンも気になって調べたらしいんだけど、大昔から金持だったから○家はザル経営をしていて元から危うく、普通にバブルが弾けた煽りを食らっただけみたい。
ついでに、その時もらった謎グッズと金どうしたのって聞いたら、謎グッズはしばらくして捨てて、金のことは教えてもらえんかったwww
オカンはその事件以来、すっかり○家とは交流を断ってしまったらしい。
でも、今回のことと絶対関係があると思ったから、親戚を頼り、俺はなんとかして○家の一人と連絡をつけた。
会って一言目で、「キミが生きてるとは思ってなかった」と言われたよ。
それから、ワラズマのことを教えてもらった。
とはいえ、その人は四男だったから、すべてを教えられていたわけじゃないみたい。
ワラズマは、それ自体が神様なんだそうだ。
でも、その中にいるのは、神聖とは真逆のすごく悪いものらしい。
日本人って、よく怨霊になった人とか祀りたてちゃう癖があるよね。
藤原道真が天満宮の神様になってたり、平将門が祀られてたり。
それのミニチュア版らしい。
ただ恐ろしいのが、神様にできそうな怨霊なんていないのでそれは人工的に作るしかないんだそうだ。
詳しい作り方は、その人も知らなかったけど、ただ、よりたくさんの材料を使ったほうがよく、自分に敵対する人や、恨みを持つ人を使ったほうが効き目が凄いらしい。
上記みたいに濁して言われたけど、意味がわかったとき、俺は心底震えたね。
あとワラズマは「割らず間」と「童間(ワラシマ)」の意味じゃないかって。
最初のほうはわかるが、後ろは意味がわからない。
フィンガーさんは、絶対成人女性の指だったし。
で、その人が覚えているワラズマの規則は。
・必ずその家の仏間の隣に作らなくてはならない。
・四方を廊下で囲み、そこは人の通行を制限してはならない。
・むしろ客人には、その廊下を通ってもらったほうが良い。
・ただし、ワラズマのことは、家の者以外に話してはいけない。
・あと、部屋には出入り口を二つないし、三つ作らなくてはならない。
最後の変だよね。
尋ねてみたら、ワラズマは本来一代、よくて二代くらいにしか効かないものらしい。
けれど○家は元からお金持ちだったので、高名な行者に金を積んで頼み込み、特別長く効くワラズマを作ってもらったんだって。
本来のワラズマは、障子や窓などで塞いであっても、出入り口をいくつも作って、かつ客人にその周囲を歩いてもらわなければならない。
でも、部屋に入られたら術は切れ、中から怨霊が飛び出すという効き目は凄いが、かなりリスキーな代物だった。
どうやらその行者はワラズマ作りが専門つーくらい慣れた人だったらしく俺が考えた最強ワラズマ()を、○家に作ってやったらしい。
本来の形と違い、○家のワラズマの四方が壁で塞がれていたのは、そのせい。
で、もうわかってるだろうけど、普通ワラズマを開封した人間は、誰だろうとすぐ死ぬものなんだって。
なにせ怨霊入りの部屋を開封して、何十年も閉じ込められていた恨みパワーをもろに浴びるんだもの。
続く・・・。