四国の山奥の風習

カテゴリー「怨念・呪い」

漫画家の水木しげるが書いた「のんのんばあ」の話に「引っぱる」というのが出てくるが、数十年前まで俺の住んでいた地方でもこれに似たことがあったんで書いてみる。

当時、自分はまだ小学生だった。
「引っぱる」というのは、今まさに死んでいく人間はその死のまぎわに生きた人を道づれにして冥土に旅立ってゆくことができるというような話。

うちは四国の山奥の集落だったんだが、当時90過ぎのひいばあさんが肺炎になった。
ひいばあさんくらいの年代は意地の強い人が多くて、前日まで腰を曲げて畑に出ていた年寄りが明くる日ぱたっと倒れて亡くなってしまうなどということがよくあったらしい。
長く寝たきりになって家族の世話を受けるという人は不思議と少なかったという。
当時は自宅療養と往診が当たり前で、入院先で亡くなるということも年寄りでは珍しかった。

ひいばあさんも肺炎と診断されてから1週間もたたずに死んでしまったが、寝ついたという話を聞いて、近隣のばあさん連中がわらわらと訪ねてくる。
それも夜陰にまぎれるという感じで・・・。

ばあさんらは普段は夕飯を食うともうひっこんで寝てしまうんだが、夜の9時過ぎ頃に見舞いと称して野菜などを持ってきては病人の枕元で長いこと話し込んでいく。

ひいばあさんは熱も咳もあって話ができるような容態ではないんだけど、それもかまわず病人に向かって「下の郷の○○婆を引っぱってくれ」のようなことをくどくどと頼み込む。

その○○婆にどんなひどい仕打ちをされたかなどのこともいっしょに、これらの声はひいばあさんが寝かされてる部屋から逐一聞こえてくるんだが、頼む方はそういうことも気にしてられないというくらい熱心だった

その頃はまだ一家を仕切っていた自分のじいさんはあまりいい顔はしてなかったが、ここらの集落の風習みたいなもんだから仕方がないという感じだった。

ひいばあさんの葬式を出して3ヶ月以内に、集落の年寄りが2人亡くなった。
そのうちの1人は間違いなく、ひいばあさんが引っぱってくれと頼まれていた対象だった。

ただし、その人は70過ぎだったんでたまたまなのかもしれず、引っぱりの効果かどうかは何とも言えない。

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