鬼となり頭を食らう(後編)

カテゴリー「怨念・呪い」

※このお話には前編があります。

そして10分程たった時に異変は起きた。
急に拝み屋は動きを止めたかと思うと、真っ青になりトイレへ駆け出して行った。
高村は唖然としてその光景を見つめていたが、数分して拝み屋から今回の事の真相を告げられた・・・。

拝み屋:「失礼しました、高村さん・・・今から告げる事は貴方にとって酷な事です、聞く聞かないは貴方が決める事です、どういたしますか?」

高村の決意は固く高村は拝み屋にこう告げた。

高村:「どんな結果でもいいです、俺は本当の事が知りたいんです」

その決意をしっかりと汲んだかのように、拝み屋は暗く重たい口調で話し出した。

拝み屋:「わかりました、結果から言います。確かに貴方が言う女性が由美さんの死に繋がる事は間違いないです。ですが・・・はっきりと言います、きっかけとなった要因は貴方です」

そう聞いた高村の頭には疑問しかなかった。
普段恐怖体験談で語られるような事はしていないし、近付くような真似もしていない。
なのに何故と考え高村は拝み屋に尋ねた。

高村:「あの・・・俺は危ない所には近付いたりとか無いし・・・要因って具体的には何なんですか?」

拝み屋は更に暗く重たい口調で話した。

拝み屋:「貴方は最近女性関係を重複したり、幅広く関係を求めたりしていましたよね?それが女性を呼び寄せるきっかけになりました」

話してない事を当てられ唖然としている高村に拝み屋はこう続けた。

拝み屋:「その女性は世間一般で言われる『悪霊』とは違います。遥か昔に嫉妬に狂い生きながらにして鬼となった女性です。その方から貴方は魅入られた・・・」

高村:「鬼・・・ですか?」

高村は混乱していた。
ただでさえ初めて心霊現象に見舞われた上『鬼』等と言われたらそうなって当然だ。

そう聞かれた、拝み屋はこう告げた。

拝み屋:「そうですね、分かる範囲ですが経緯から話させてもらいます」

ここからは何故鬼になったかまでを話させてもらう。
伝聞で長い為うろ覚えの部分もあるが聞いてもらいたい。

時代の背景までは聞いてはいないが遥か昔、呪術などを信じ、行使されていた時代だ。
ある良家(公家?)に一人娘がいた。
その娘がとある縁談で庄屋の次男の所へ嫁いで行った先での話だ。

最初の内は仲睦ましく良い夫婦と世間でも評判の夫婦だったらしく、とても幸せに満ちていた。
そして家を構えたが実家の家業柄か男は実家への通い婚となった。
初めのうちは毎日帰宅していた男だったが年月が過ぎるにつれて二日に一度、三日に一度とどんどん帰宅する回数が減ってきたのだ。
男は仕事が忙しいと言っていたが実際はそうではない。
男は浮気をしていた。

女はもちろん気付いていた・・・。
だが心底男に惚れ込んでいた女は只々男を待ち続ける日々を過ごした。
だがその思いも虚しく、男は遂に帰らなくなった。

元々嫉妬深かった女が狂うまでにそう月日は必要無かった。

そして女は『貴船大明神』にこう願った。

女:「貴方を七日間願い奉る。どうか憎々しい女を呪い、取り殺す方法を教えて貰いたい」

その願いが通じ、『貴船大明神』は女にある呪術を教えた。
その呪術とは周知であり世間一般で最も有名な呪術だと思われる・・・。
そう『丑の刻参り』だ・・・。
だが世間で知られる物とは違く、恐らくこれが元祖の物と思われる。

白い衣装を纏い、髪を五つに分けて角のようにし、顔には朱、身には丹を塗り、鉄輪を逆さに被り、鉄輪の足に松を塗り火を付け、更に松明を口にくわえ両端に火を付ける。
その状態で河瀬に二十一日間浸かるという壮絶な物だ。

その苦行を達成し、遂には女は生きながらにして鬼となった。
鬼となった女は四十九本の頭の無い釘を女の家に向け人型に刺し、女を取り殺した。

女は歓喜とした男が戻って来ると・・・。

だが男は戻らかった・・・。
鬼となった女は完全に見放されたのだ。
だが女は諦め無かった。
どんな仕打ちをされても男を慕う気持ちは無くなら無かった。
そして女は更に歪んだ思想を持った。

自分以外の女がいなければいい・・・。

女は山に入り、一人の幼子を拾う。
頭が通常より大きく異業な姿、奇形児だ。
女は子供を育てた。
自分の目的の為だけに・・・。

その育て方はおぞましいの一言に尽きる物だった。

山を通る人を襲い、路銀を奪い、殺した。
だがそれだけではない、必ず2人一組を狙い、片方を惨たらしく殺した後にもう片方を殺す。
そして後に殺した方の首を切り落とし、砕き、粥に混ぜ子供に与えていた。

古い思想だが、人間の頭には『魂魄』が宿るとされてきた。
だが『魂』と『魄』は別物で『魂』は死後天に昇る魂で『魄』は重く濁り、死後は頭部に留まり、やがて散って行く魂とされている。
女は『魄』だけを子供に与え続けた。
そうする事で怨鎖の念を増幅し断ち切らぬように。

そして十年の月日が経ったある日、女の目的が実行された。
恐らく歳にして十二歳位だろうか、自分が育てた子供を生きながらにして首を切り落とした。
生きながら殺す事で『魂』も『魄』共に頭部に残した。

そして頭部を人の行き交う街道に埋め、人が行き交う事で『魂』が昇るのを防ぎ、怨鎖の念が増幅する事を待った。
そして怨鎖の念が増幅し続ける事十二日目、女は頭部を掘り起こし、頭部の中の土と自分の血を混ぜ合わせ土像を作った。
悍ましいまでの鬼の像だ。
それを箱に納め封をし、出来上がったのが『外法箱』だ。
通常とは作り方も意味も根本から違う恐ろしい物。
それを用いて、町の女を呪い殺そうとした。

だが、十年という長い歳月が経ち、あれだけ恐ろしくおぞましい事をしてきた女が噂にならない筈がない。

町に堂々と出て来た女は町人から捕まった。
『鬼』として・・・。
そして今までの数々の所業の償いとし、無論処刑となった。

だが町民達は恐れた。
生きながらにして鬼となった女をそのままにしていいものかと・・・。
祟りに見舞われるのではないかと・・・。
そこで丁度来訪していた歩き巫女に相談した。

歩き巫女はこう町民に告げた。

巫女:「このままで怨念による祟りに見舞われるでしょう、私の指示通りにして下さい」

歩き巫女がとった方法は『逆さ埋葬』だ。
仏説に基づく物で、地獄など悪趣に堕ちた者は現世とは逆の姿をしていると、つまり屍体を物理的に地獄と同じにする事で祟りを封じた。

それだけでは済まさず、『黄泉還り』を防ぐ為、街道に地中深く穴を掘り、逆さ埋葬した上で何重にも石で封をし、埋葬した。
そうする事で黄泉還りを防ぎ、よく人が往来する事で霊が浮かび上がるのも防ぐようにした。
そして鬼となった女の祟りは封じられた・・・。

俺はここまで聞き一息入れ、そして疑問となる事を高村に問い掛けた。

俺:「今の話が本当だとしても何でその女は死んだ後の事も知ってんの?おかしいだろ」

正味、今の現代に呪いだ。
怨念だが残っているとは思え無かったからだ。

高村はこう話してくれた。

高村:「正確に言うと・・・女の霊が起こした事じゃないらしい、問題は『箱』の方らしいんだよ・・・」

拝み屋の話によると、霊は今だに元街道に封じられたままか、すでに地獄に堕ちているらしい。
今回の事を引き起こしたのは女が残した『外法箱』だと言った。

高村:「魅入られたのは『箱』に残る怨念なんだよ・・・」

高村は泣きそうな声で呟いていた。
俺は重過ぎる雰囲気を軽くしようと高村に言った。

俺:「言い方悪いけどさ・・・由美さんが亡くなったならもう終わった事じゃないかな?お前が元気無かったら由美さんだっ・・・」

高村は遮るように怒鳴ってきた。

高村:「何も終わってねーよ、知った風に言うな」

高村は怒鳴った後、ハッとして「悪い」と一言言って俯いた。
俺は周りに軽く頭を下げ、高村に尋ねた。

俺:「終わってないってなんだよ?何が終わってないんだよ?」

高村はか細い声でこう言った。

高村:「最近見えるんだ・・・昼間だろうが夜中だろうがあの女が・・・俺もう無理なのかもな・・・」

高村が周りを確認していた理由がようやく分かった気がした。
高村は女性を見ていたわけじゃない、女の怨念がいないかを見ていたんだ。
俺は空元気を出し高村を励まそうとした。

俺:「大丈夫だって、話も眉唾だし、由美さんが亡くなって落ち込んでるのが原因なのかもしれないしな?それにさ、もし何かあったらその拝み屋に頼めばいいじゃん」

高村は更に俯きながら呟いた。

高村:「拝み屋は死んだよ、心不全だった。隣に住んでた女子大生も死んだ、それも心不全だ。そんな偶然あるか?」

俺は何も言えなくなり、それから一言も話す事も出来ず居酒屋を後にした。

そして高村と会ったはその日が最後になった。

冒頭で述べたが「心霊は根源的な恐怖、人間は狂気的な恐怖」そう言ったが、間違いだったのかもしれない。
心霊も元が人間である以上、本当の根源的な恐怖は人間の狂気なのかもしれない。
そして俺は一人の男性の為にここまでの事が出来、遠い先にまで恐怖を残す、俺は人間の持つ狂気に心底恐怖した。

正直この話が真実かは分からない。
かなりうろ覚え部分もあるし、最愛の人を亡くした高村がノイローゼになっただけかもしれない。
だが俺は確かに聞いた・・・。
丁度高村が失踪する前日に高村からかかって来た電話の先で高村の怯える声に混じり、狂ったように笑う女の声を・・・。

高村は行方は現在も判明しないままとなっている・・・。

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