後輩は失禁していた

カテゴリー「怨念・呪い」

俺のおじさんはリゾート地で観光客向けのセスナのパイロットをしている。
そのおじさんが今年の正月に帰ってきたとき聞かせてくれた話。

ある日、いつもように客を乗せフライトに発った。
その日は駆け出しのパイロットの指導役として副操縦士席に座った。
機体は何事もなく離陸した。

パイロットは可愛がっている後輩でいつものように冗談を飛ばしてからかっていたが、どうも後輩の様子がおかしい。
顔色が悪く、歯をカチカチ鳴らしてフロントガラスをただ見つめている。
おじさんの冗談にもなにも反応しない。

操縦に問題はないが、心配になったおじさんが、「体調でも悪いのか」と尋ねると「うるさい!黙ってろ!
」と強い口調で怒鳴られた。

おじさんは驚くとともに信じられない態度に怒りがこみ上げてきて、「引き返せ!フライトは中止だ!お前正気か?」と後輩を制したが、彼は聞く耳をもたず、フライトを続行した。

ただならぬ様子に危険を感じたおじさんはその後も再三中止を命じたが、結局フライトは最後まで完了し、無事着陸した。

おじさんは休憩室で後輩に問い詰めた。
「どういうつもりだ」と。
後輩はこう語った。

離陸直後、気がつくとフロントガラスに老婆が張り付いていたという。
ものすごい剣幕で後輩を睨み付け、思い出すのもはばかられるくらい、おどろおどろしく呪わしい言葉を呟きかけてきたとか。

機外の声など聞こえるはずはないのに、なぜかはっきりと聞こえた。
様子からして、おじさんは気づいていない。

なぜか老婆に意識を奪われそうな予感がして、正気を保つのに精一杯で、とても会話などできる状態ではなかった。
どういうわけか、このまま墜落してしまえばどんなに楽か、などというネガティブな考えが浮かんでくる。
それらを振りきるのに精神力が限界だったらしい。

後輩は失禁しており、疲弊しきっていた。

それ以上話を聞くことはできなかった。
この話は二人の心にしまっておくことにした。
その事件を最後に後輩は仕事を辞めた。

おじさんはまだ操縦菅を握っているが、いまだ老婆を見たことがない。
原因不明の事故なんていくらでもあるが、そのうちの1つになってたらと思うとぞっとするよな。

おじさん:「家族や会社のために、辞めるわけにはいかないが、実際見てしまったら俺は大丈夫かな。」

そういつも豪快なおじさんが気弱そうに話していたのが印象的だった。

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