青色の屋根の町(後編)

カテゴリー「怨念・呪い」

※このお話には前編【青色の屋根の町(前編)】があります。

思わず神輿から手を離してしまい、地面に手を突く。
神輿が落ちると思い上を見上げると傍まで寄った大人たちが落ちないように支えててくれたようで神輿は宙に浮かんでいる。

別の大人の手が俺を起こし神輿のところに立たせると、神輿を支えていてくれた手が無くなり神輿が両肩に食い込む。
後ろを見る余裕もないが耳には「遅いからさぁ、ぶつかっちゃうんだよねぇ」という声が聞こえてくる。

一瞬ムカついたが今は早くこの神輿を下ろしたい一心だったので、また歩き始めようとしたその瞬間を狙って「ドン!!」とやられた。
同じようにつんのめり、両手が地面に付きそうになったところで大人の手に支えられる。

神輿も宙に浮いている。
また起こされて神輿を担ぐ。

またすぐに「ドン!!」
また転びそうになると大人の手が支え・・・。
また神輿を担ぐ・・・。

明らかに異常だ。
周りの声も「頑張れ」とかいう応援じゃなく「早く立て」とか「早く歩け」などの怒声に変わってきている。
半分泣きそうになりながら神輿を担ぐ3人。

周りの大人の中には竹を縱に裂いた竹刀のようなものでケツのあたりを叩いてくる人までいる。
もう嫌だと思って逃げようとしても周りの大人によって引き摺られて戻される。

おかしい・・・。
何かおかしい・・・。

そう思い、ふと近くにいた大人の顔を見てびっくりした。
すでに笑顔ではなかった。

まるで敵を見るかのような目で俺たち3人を睨みつけていた。
周りの他の大人たちも同じだった。
皆が皆すごい形相で睨んでいる。

子供心にこれはまずいと思い、何とか逃げ出そうと考えるが、それを見越したように後ろから「ドン」とやられてまた転んでしまった。
荒々しい手に立たされ、無理矢理神輿を担がされる。

そのわずかな間で周りを見渡すと俺たち3人の神輿の周りに大人が群がっている。
進行方向の右手にいつもひな壇があるので大人は少なめだ。
大人のほとんどは左手と正面に集まっている。
真後ろには大きな神輿が迫っている。

神輿を担がされる前にYとNの顔を見た。
眼が合った。
軽く頷くと神輿を担がされて大人たちの手が無くなった瞬間に右側に神輿をわざと倒した。

よろけて倒れたと思った大人が手を出して神輿を支えようとする。
俺たち三人はその隙を見てひな壇の方に駆け出した。

後ろからは大人の声で「捕まえろ」という叫び声が上がっていたが、その頃には一心不乱に笛や太鼓の音を鳴らす大人の脇をすり抜けていた。
闇雲に走って川沿いの道まで来るとそのままの勢いで下流に向かって走り出した。

どのくらい走ったか判らないが、息が切れるまで走り続けて、もう走れないところまで走ったところで
後ろを振り返ると、懐中電灯の光らしきものが10個以上見える。
その光景に寒気を感じて3人で無理矢理走り出した。

少し走るともう息は続かない。
もう走れないと思ったときに目の前に自分たちの自転車が見えた。
3人で何も言わずに飛び乗り、ひたすらペダルを漕ぎ続けた。
怖くてもう後ろを振り向く余裕もない。
必死だった。

自分の知ってる道に出てもしゃべる余裕が無くって、ひたすらペダルを漕ぎ続け、一番近い俺の家に3人とも転がり込んだ。
玄関から入るなり安心して泣き出す3人。

怒りまくっていた母親も父親も呆気に取られていたと思う。
そりゃそうだ、やっと帰ってきたと思ったら赤い法被着て、傷だらけで泣き喚く息子を見たらビックリするに決まってる。

一泣きしてようやく事情聴取。
もちろん他の二人の親も呼ばれた。
今日起きたことを包み隠さず話した。

川を遡った事、山のふもとの町で親切にしてもらったけど、重い神輿を担がされたこと。
年上におにいさんと呼ばれたり、町人の態度がおかしくなり、すごい目で睨まれた事・・・。

親たちはみんな頭の中が「?」だったに違いない。
でもその中でNのお父さんが訊いてきた。

Nのお父さん:「その町の家の屋根の色全部青じゃなかったか?」

俺たちはみな「そうそう」と頷いた。

Nのお父さんは「やっぱりか」といって説明を始めた。

Nのお父さんによると、その地域は昔から差別の強いというよりは仲間意識が強い地域で、みんなが同じ家に住み、同じように暮らしていくという社会主義みたいな考えがある地域らしいんだ。
そんな村の昔話で、鬼の一家が出た話ってのがあるらしい。

近くの山には鬼の一家が住んでいて、それが時々ふもとに下りてきては悪さをして逃げていく。
一番悪いのは父親であろう大鬼で、人を犯し、殺し、食み、これを至上の楽しみとしていた。
あとは4匹の小さな鬼で子供のようだったが父親と同じように悪さをしていたという。

そんな事を繰り返していたらしい。
その町(そのときは村か)も結構な被害が出て、襲われて命を落とすものや、攫われていく事があったらしい。
仲間意識の強い村の中でのこと。
どうにかしようと村の中で思案しあった結果・・・鬼一家をもてなす事に決めたらしい。
鬼が来たら村人みんなでニコニコしながらお出迎えをして、考えられる全てのもてなしをしたらしい。

そんなことしたら鬼が一家で居つくかもしれないって考えるだろ?
最初は警戒していた鬼も段々慣れていき、結局一家で居ついてしまった。

それでもみんなニコニコ。

ある日いつものようにもてなしていると、大鬼は酔っ払って眠たそうにしている。
それを察したある村民が大きな戸板を持ってきて「この上に横になってください。私どもが寝床まで運びましょう」と言った。

その申し出に大鬼も気を良くし、戸板の上に横になって運んでもらう事にした。
そしてそのまま大きな寝息を立てて眠ってしまった。
ふと、鬼は眼を覚ましたが体が動かない。
見ると体が鎖でグルグル巻きにされ、腕を動かすことすらままならない。

騙されたと気づき子鬼を呼ぶが返事が無い。

大鬼の体は戸板に乗せられていたが、少しずつ動いている。
山を登っているようだった。

動かない体を無理して戸板の下を覗き込むと、大鬼の体を持ち上げているのは4匹の子鬼だった。
その4匹全てが大怪我を負っている。

大鬼の寝ている間に村民にやられたのであろう、片手をなくしている子鬼もいれば足がもげ掛かっている子鬼もいた。
4匹に共通しているのは4匹とも両目を潰されていると言う事だった。

その子鬼が大鬼の乗った戸板を担いでいるのである。
子鬼を村民の1人が「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」と手を叩いて導いてる。
周りには人、人、人。

その全ての人の手にはそれぞれ鍬や鋤、竹で作った鎗などがあり、一番近くにいる村民は、たまに子鬼を後ろから手に持った得物で叩いて喜んでいる。
それが山を登っていく。

子鬼が倒れそうになると村民が得物で叩き、起こし、また担がせて歩かせる。

そのうち一匹の子鬼が歩けなくなった。
足がもげ掛かっていた子鬼だ。
村民は容赦なく得物で打ち据え、殺してしまった。

その死体を戸板の上にいる大鬼に乗せると大鬼は大きな声で吼えたという。
それでも村民は気にしない様子で山を登らせる。

少し進んだところでまた子鬼が一匹殺された。

子鬼2匹では戸板を担ぐ事が出来なかったので村民の若い奴が手伝ってやった。
数時間かけて山頂に上ったところで残りの子鬼2匹が殺された。

それを見た大鬼は怒り狂った声を上げたが、村民は黙々と薪を拾っている。
大鬼の上に死んだ子鬼の死体を重ね、その上に薪を山のように積み上げて火をつけた。

大鬼は死ぬまで吼え続け、完全に息絶えるまで数時間かかったという。
その間村民は宴を開いていたとか。

そんな事があり、鬼退治をした村として後世の村人に伝えるため、毎年その時期になるとお祭りをする事にしたらしい。

鬼役が4人ほど(ほとんどは子供)で重い神輿を担ぎ、それを村民全員でからかいながら練り歩くというもので、昔は「鬼祭り」と呼ばれていたらしい。

しかし、村内で鬼役をするのを嫌がる村民が増えたため、たまたまその時期に来た旅人とかに無理矢理させることにしたらしい。
鬼退治のときと同じように、最初はもてなしておいて、祭りがあるといって参加させ、無理矢理神輿を担がせる・・・。

近年は「鬼祭り」を「鬼さん祭り」と改めてはいるが、余所者が行くと必ず神輿を担がされてひどい目に合うので、知ってる人はこの時期は誰も近づかないようにしてるという。

それを聞いて俺たちは身震いした。
あの時言ってた「おにいさん」は「お兄さん」じゃなくって「鬼さん」・・・?

そう考えていたら、Nのお父さんがぽつりと「ものの本によると山に住んでいたのは「『鬼の一家』じゃなく『山賊の一家』らしいんだよな」って。
じゃぁ、殺されたのは5匹の鬼じゃなくて5人の・・・。

それからしばらくは外出できず、家の中で少しの物音にも震えてた。

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