幻のヤクザ事務所

カテゴリー「都市伝説」

実体験であるがゆえ、あまりパッとしない話。

中学生の時、俺は夜に自転車で地元を徘徊するのが好きだった。
何か目的があるわけでもなく、夜風に当たりながらあてもなく彷徨う。
その日もいつものように徘徊していた。

そういう時はなるべく新しい道を開拓する。
近所の道は行き尽くしたので、少し遠くまで行き、自分が知らない区間を探検していた。

曲がったことのない路地を何本か曲がり、方向感覚もわからなくなってきた頃、突如として道が開け、広い民家の庭に出た。

そこには上半身裸でサラシを巻いた、昔の任侠スタイルの男が立っていた。

「兄ちゃん、何しに来た!」

男は声を張った。

両肩から背中にかけて龍の入れ墨。
手には木刀を持っている。
背後には横幅の広い平屋があり、縁側に同じようなサラシの男が2人座っていた。

「間違えて入って来たんだな?そうだろう?」

男がにじり寄って来る。

眉間に皺を寄せ俺を睨みつけ、木刀を握る手には明らかに力が入っていた。
俺は慌てて自転車をUターンさせながら、「す、す、すみません!道を間違えました」と言い残し、自転車に飛び乗り急いで去った。

不可解なのはここからだ。
家に帰ってそのことを両親に報告すると、父も母も、この辺にヤ●ザの事務所があるなんて聞いたことがないと言う。

いや、自分で思い返してみてもおかしい。
例えそういう事務所があったとしても、サラシ巻いた男が立っているなんて異様だ。

翌日に学校で話しても、誰も知らない。
その近辺に住んでいる奴にも聞いてみたが、冗談を言っていると思われたようだ。

後日、昼間に再度行ってみたのだが、どうしても辿りつけない。
たぶんここだろうという場所一帯にでかいマンションが建っており、目的の箇所に入り込めない。

途方に暮れていると、管理人?らしき人がホウキとチリトリを持って出てきた。
そいつがサラシの男にそっくりだった。

しかし先日とは違い、眼には覇気がなく、体もふた回りくらい小さいように見えた。

俺は訳が分からなかったが、なんだか面白くて笑ってしまった。
いま思い出しても、意味も解釈も見出せないアホみたいな話。

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