何人かの社員が深夜に渡る編集作業を続けていた。
翌朝には印刷所に渡さなければいけない。
写真のレイアウトを決め、そこに説明文を付け加える。
見出しを大文字で指定し、データが正しいかどうかを確認。
編集長は帰ってしまったため、若手だけでそれらの作業が行われていた。
社員のIも、背中を何かに押される様な気持ちで仕事をしていたが、中々捗らなかった。
空腹で集中力を欠いていたのだ。
席から立ち上がり、「誰か食べるもの買って来て」と大声で言おうとしたが、辛うじて思い止まった。
フロアには殺伐とした空気が流れている。
イライラしている彼らを刺激したら、どんな反撃が返ってくるか解らない。
誰かお使いを頼めそうな人がいないかと席を回ると、ワープロに向かって仕事をしている女の子が目に止まった。
長い髪の毛が綺麗に整えられている。
こんな子うちにいたかな、と思いながらも、Iは声をかけた。
「ちょっと悪いけど、夜食買って来てもらえる?」
女の子は無視して仕事を続けている。
「聞こえなかった?腹減ってるんだ。夜食、買って来てよ」
空腹と睡眠不足でイライラしていたIは、大声を上げながら、女の子の肩を掴んで振り向かせた。
その女の子には、目と口がなかった。
肉色の顔には、鼻や眉毛しかない。
女の子の顔を見たIが悲鳴を上げると、皆が振り返った。
のっぺらぼうの女の子は困った様に立ち上がると、しばらくの間、Iと目を合わせていた。
目がないのにこういう表現はおかしいが、とにかく見つめ合っていた。
のっぺらぼうは首を傾げ、髪をかき上げた。
そして歩き出すと、ドアを開けて出ていった。
フロアは静まり返っていたが、やがて皆仕事に戻り出した。
Iだけが口も聞けずに立ちすくんでいた。
おばけが出たくらいで仕事を中断するわけにもいかないので、Iはその後、自分で夜食を買いに行った。