臭い臭いカメムシさんと変わり者のおじいさんに纏わる話。
秋口になると冬眠のためにカメムシの大群が飛来して、家屋にもぐりこむことがある。
ある種のカメムシは毎年決まった家屋を選んで飛来してくるので、ターゲットにされた家は不幸としか言いようがない。
ターゲットにされた家ではどこからともなく侵入してきたカメムシが味噌汁の中に落ちたり、米櫃や保存食品の中に入り込んで臭いが付いて捨てるはめになった、などその不快さは極まりない。
カメムシが家を選ぶ基準は家屋の構造や立地が関係していると言われるが、詳しい理由は明らかではなく、集合フェロモンのようなニオイ物質を頼りに飛来してくるという話もある。
そして、カメムシの大群を引き寄せるコツというか方法を心得た人間が居るらしく、通称「カメムシじじい」と呼ばれ、とある地域では恐れられていた。
なんと・・・カメムシじじいの恨み買った者の家では、秋口になるとカメムシの大群が飛来するというのだ。
カメムシじじいは自宅で気味の悪い虫や蛇などを大量に飼育している一人身の高齢者で、彼が暮らす山村ではすこぶる評判が悪かった。
他人の畑から勝手に農作物を盗ったり、酒に酔っては道行く人に絡んだり、夜中に大声で叫ぶといったおかしな行動を取る人物であった。
奇行のせいで近隣住民とのトラブルが絶えなかったのだが、カメムシじじいと争いになった人の家では変な臭いのする液体がばら撒かれたり、大量のカメムシの死体が詰めてあるガチャポン容器が投げ込まれたりする嫌がらせがあった。
カメムシじじいが真夜中を選んで嫌がらせをする姿が目撃されていたのだ。
そして、嫌がらせを受けた家々では、秋になるとカメムシが大挙して飛来するというのである。
トラブルになった人の中には経営する旅館がカメムシ被害に遭ったケースもあって、悪臭を放つカメムシが客の布団や浴場の湯船に入り込むトラブルが頻出したため一時的に休業にまで追い込まれた。
現在はカメムシじじいはお亡くなりになったため、ほんとうに彼の仕業でカメムシの大群が飛来するようになったのかは確かめる術は無くなってしまった。
しかし、カメムシに気に入られた家屋では今も大群が飛来して来ているという。
何とも不思議な話である。