一寸ババアの都市伝説

Mの家は温泉旅館を経営している。
そこは若い女性達に人気があり、週末はOLらしい集団客で賑わう。

Mは幼い頃から、禁じられた行為を続けてきた。

風呂場には客の安全管理のため、パイプの蔭や小便小僧の足元などの目立たない場所に、ボイラー室から浴室を覗ける穴がある。
Mはその穴から女性客の裸を見て、自分の性欲を慰めていた。
Mの欲望は歯止めがきかなくなり、父親がボイラーの点検をした後に忍び込み、毎日のように密かな犯罪行為を続けていた。

中学校のクラスで、女性の裸について仲間同士で話し合う事があった。
そんな時、子供じみたその話の輪の中で、Mは一人、優越感を感じたものだ。

中学卒業後。
技術職志望だったMは工業高校に進学した。
そこで機械工学を勉強したMが、その能力を犯罪に利用するのは、彼にとって当然の流れだった。

放課後、学校の旋盤機で作った腕の部分に、リベッドで市販のビデオカメラを固定する。
それをMは、旅館のトイレの、パイプの蔭に備えつけた。
Mにはもう一つ、女性がトイレで用を足しているところを見たいという願望があったのだ。

Mの願望は満たされた。
一日中ビデオを回し、人のいなくなった時にテープを回収して欲望を満たす。
ビデオテープは引き出しの中に隠しきれないほどにまで増えていった。

レンタルビデオ店のアダルトコーナーでも、Mは一人、優越感に浸った。
本物を見ているMには、ほとんどがやらせだと解るからだ。
実際はもっと生々しく、エロティックなのだ。
友達や先輩に売ったり、アダルトショップに数十万円で引き取ってもらえるのでは、と考えた事もある。
しかし気の弱いMには、その一歩を踏み出せなかった。

ある日、Mの旅館で事件が起きた。
警察と共に踏み込んだ現場で、Mはその惨状を目撃した。
トイレの個室に、鋭い刃物の様なもので切り刻まれた女性の死体が倒れていた。
服の上から開いた肉が覗き、骨が不気味に皮膚から突き出ている。
長い髪は血溜まりに沈み、壁に赤色が飛び散っていた。

Mはどさくさに紛れてカメラの回収に成功した。
自分でも驚くくらい冷静だった。

数日間、警察が調査を続ける間も、宿は営業を続けていた。
事件現場の別館を封鎖し、本館に客を押し入れた。

警察がこじ開けるまで、個室には鍵がかかっていた。
天井近くに換気用の細い窓が作ってあるが、人間が出入りする事は出来ない。
鑑識が念入りに、指紋などの証拠を探したが、何も見つからなかった。
旅館の評判を落とさないために、事件をなんとか隠密に済まそうとしたMの両親の嘆願も効果をあげ、女性の死は自殺という事で片付けられた。

その後、何事もなかった様に別間は営業を続け、使用人達も事件の事を忘れようとしていた。

Mはあの日から、覗きをする気になれなかった。
盗撮の習慣だけがMの日常から消えた。

あの日のビデオを見るのも躊躇っていた。
そのビデオから真実は解るかもしれないが、自殺として片付けられた事件を荒立てる事はない。
第一、警察にどう説明したらいいのだ。
自分も犯罪者として逮捕されるに違いない。

Mはビデオを捨てようかと思ったが、それも出来なかった。
見たくないという気持ちとは、真逆の気持ちもあったからだ。

あれは断じて自殺ではない。
あの女性の傷は二十数箇所にも及んでいたのだ。
どうやったら、あれほどまでに自分を傷つけられるんだ。
事件の真相は被害者と、犯人しか知らない。
その真実を知る事の出来る立場にいるのは、自分だけ。

ついに、Mはデッキにテープを差し込んだ。
画面に、惨劇の舞台となったあのトイレが映し出される。

Mは例の女性が個室に入る場面まで早送りした。
女性は下着を脱ぐと、便器に小便の飛沫を散らせる。
いつもなら興奮する場面に、Mの心臓は違う理由で、段々早く脈動する。
そして、遂に事件の真相が映し出された。

上の小窓が、音もなく開いていく。
そこから、身長が一寸(約3.03cm)ぐらいの人間が入ってきた。
顔は皺だらけで、女の様だ。
“鬼婆”という言葉がMの頭に浮かんだ。
“鬼婆”は女性の肩に飛び移り、手に持った包丁を女性の喉に突き立てた。
悲鳴も上げずに女性が倒れる。
“鬼婆”は馬乗りになって女性の身体を切り刻み、事を果たすと、上の窓まで壁をよじ登っていった。

信じられない光景を目にして、Mは呆然と画面を見続けた。
悪趣味なホラー映画の様な出来事だったが、今のは間違いなく、Mの隠しカメラが捉えた、現実の光景なのだ。

尚も呆然としたまま、惨劇の映像を見続けるM。
そのMの背後、部屋の天井付近で、何か小さいものが動いた。

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