ガンが見つかった。
もう余命も幾ばくもないことは医者から聞かされた。
死ぬ事はやはり怖かった・・・。
守らなきゃいけない家族がいる・・・。
やりたいことは沢山残っている・・・。
うちは裕福な方ではなかったが、二人の子と最愛の妻がいる幸せな家族だった。
まだ30代。
死ぬ事は即ち家族の不幸を示唆していた。
死ぬ事が明白になってから、毎日枕を涙で濡らす夜が続いた。
声を殺して自らの運命を恨む日々は生きたいと願う私の心、そのものだった。
そんなある日この世に多くのガン治療薬があるのを知った。
私は狂喜した。
それらのどの薬も金さえ出せば手に入れる事が出来ることを同時に知ったからだ。
惨めでもいい、恥ずかしくてもいい・・・。
生きるという事に執着する事にどうしてためらうだろうか。
いやためらうはずなんてない。
私は数日の間にそれらの薬を手に入れた。
金は生活に支障が出てしまうほどにかかってしまったが、そんな事はどうでも良いことのように感じた。
何より妻が率先して買い集めてくれたことがうれしかった。
しかし、もし万が一これらの治療薬が全く効果を発揮しなくても、私はきっと笑うだろう。
これだけの事はしたんだ、父さんは死ぬけど生きるために最期まで手を抜かなかったぞ!という姿を妻や子に見せたかった。
いやそれは自分への言い訳がしたかったのかもしれない・・・。
私はその数100種類にも及ぶであろう治療薬を片っ端から飲んでいった。
するとどうだろうか。
一週間飲み続けると、私の体に蔓延っていたガンはその成長を完全に止めたのだ。
医者も驚いてこう聞いた。
医者:「ガンの進行が一時期ですが、完全に止まってますよ!一体なんていう治療薬を飲んだんですか?」
私は生きるという死に方を知った。