降りる場所を間違えたら・・(後編)

カテゴリー「都市伝説」

※このお話には【深夜特急(前編)】があります。
私:「お父さん?降りたよ?」

父:「そうか。それじゃ一回、切ってお前の居場所を調べるからな。動くんじゃないぞ。何かあったらすぐ電話しなさい。」

ピッ、ツーツー

冷たい機械音とともに父との電話は終了しました。
あとは父からの連絡を待って迎えにきてもらえればいいだけ。
家に帰れるという安心感と父の声が聞けたため、私は心にだいぶ余裕を持つことができました。

『自分がもしかしたら死んでいるかもなんて、本当私ったらなにを考えていたのかしら。』

携帯画面を見ると電池の残量が残り2個になっていることに気付き、すぐに携帯電話を閉じました。

『危ない危ない、電池が無くなって電源が落ちたら本当に終わりだわ。またお父さんからの連絡がくるまでは使わないようにしないと。』

ここで改めて駅のホームを見渡してみます。
誰もいる気配はなくどうやら無人駅のようで、駅名板をみてみるとやはり酷く錆びれて読めません。
前の駅と次の駅については書かれていないようです。
周りは見渡す限り、田んぼや山ばかりで真っ暗。
何もありません。

『寒いなぁ。お父さん、まだかしら・・・。でも考えてみれば線路があるんだから最低それを辿っていけば大きな駅とか、少なくとも民家があるところには着くのよね。』

そんなことを考えていると、『着信:父』

父から電話です。

ピッ。

私:「お父さん?」

父:「○○?大丈夫か?」

私:「私は平気。それより私がどこにいるか分かった?」

父:「それなんだが・・・」

どうやら私の携帯のGPS機能を使い調べてみたが、ポイントエラーとなってしまい、何度試しても分からなかった。
なので父の方から警察に連絡してみることになり、私は周りに公衆電話や民家がないか見てくれということでした。

私が前の駅名『高九奈、敷草谷』を言うとそれも調べてみると言い父との電話は終わりました。
周りを見てもやはり民家、公衆電話はおろか外灯すらありません。

『電池の残りは一個。父は警察に電話するっていってたけど、いたずらだと思われるかもしれない。駅名についても期待はできそうにないし、ちょっと歩いてみようかしら・・せめて民家だけでも見つかれば・・田んぼがあるんだから近くにありそうだし・・・。』

何分か悩んだ末、私は線路づたいに歩いてみることにしました。
父にそのことをメールし、私は前の駅の方向に歩きだしました。

1時間ほど歩いた頃でしょうか・・・民家は未だに見つけることが出来ません。
戻ろうかとも思いましたが、もう戻ってはいけない気がしました。

時々、後ろから視線を感じるのです。
怖くて振り向けませんが・・・。
それよりも気になるのはまだ前の駅に着かないことです。
前の駅までは距離がそんな無かったはずなので少し歩けば着くと予想していましたが一向に着きません。
この線路は永遠に続くんじゃないかとさえ思えます。

『もう、疲れた・・・。』

足の疲れに加えて、精神的な疲労、一人という孤独感、私はその場にへたり込んでしまいました。

『家に帰りたい・・・。お父さん・・・お母さん・・・。』

どのくらいその場に座り込んでいたでしょうか。
ふと、気づきました。
遠くのほうに光が見えます。

『なんだろう・・・』

だんだん私のほうへと近づいてきます。
しばらくしてそれは車のヘッドライトだと気づきました。

『お父さん!?』

私は立ち上がり必死に手を振りました。
お父さんじゃなかったらどうしようとも考えましたが、このさい誰でもよく、藁にもすがる思いで手を振り続けました。

車は私のすぐ近くまで来て停止しました。
間違いなく父の車です。
案の定、中からは父が出てきました。

父:「○○!!」
私:「お父さん!!」

私は思わず父に抱き着いてしまいました。

父:「もう平気だからな・・・。」

父は私に優しく声をかけてくれます。
私はこの時、本当に安心しました。
もう家に帰れるんだ、暖かい家に・・・と。

父:「寒いだろう。とりあえず車に乗りなさい。」

私:「うん。」

父の車に乗り込み、父は運転をしながら今までのことを話してくれました。
あのあと警察に電話をし、父は必死に話してみたけれどやはりまともに取り合ってくれなかったそうです。
それで警察に頼るのは諦めて再び何回もGPS機能を試していると、一瞬、私の居場所が表示されたと。
急いでメモを取り地図を使って調べ、私のいるところまで来ることが出来たそうです。

GPSが機能したのはその時のみでそれ以降は何回やってもエラーだったそうですが・・・。
それで肝心の私の今いる場所ですが・・・○○県の△△『伏せますが甲信越地方』という場所だそうです○○県は私の住んでいる隣の県です。

電車に乗って隣の県まで来ていたということになります・・・。

父:「それとな、○○が言っていた駅名のことなんんだけど。あれはもう使われていない駅らしいんだよ。ずっと昔に廃線になったんだ。」

私は今までに溜まった疲れからかひどく眠たくなっていました。

私:「そうだったんだ・・・。」

父:「あまり驚かないな?」

私:「もう驚く気力もないよ。お父さんこそ私の言ってること信用してくれてるの?」

父:「信じるも何も実際に◯○がいたからなぁ『笑』もしかして使われなくなった電車が、また人を乗せたくて○○を呼んだのかもしれないな。」

私:「そうかもね・・・。」

『ダメだ、眠たい・・・。』

私の意識は徐々に薄れていきました。

・・・~♪

私:「ん・・・・・・」

うるさい音に目を覚ますと携帯の着信のようです。
私は寝ぼけ眼で携帯をとり通話ボタンを押しました。

私:「もしもし?誰?」

父:「○○か!?お父さんだ!やっとお前の居場所が分かったよ!いまから迎えにいってやるからな!」

私:「・・・は?え?何?」

父:「だから、さっきお前の居場所が分かったんだ!向かうから動くんじゃないぞ!」

体が冷めていくのを感じます。
横チラリとみると、たしかに車を運転している父がいます。

私:「え、あ・・・」

電源が落ちました。
電池が無くなったようです。
私はしばらく呆然としながらジッと父を見つめました。

私:「お、お父さん・・・?」

父?:「・・・・・・・」

私:「ねぇ!お父さん!?」

父?:「・・・・・・・」

父は無言で無表情のままです。
窓から外をみると、周りは木が多くなっていました。
市街に向かっているはずなのにどうして・・・。

私:「どこに向かってるの・・・?」

父?:「・・・・・・・」

父は何も喋りません。
黙々と運転し続けているだけです。
私はそこで初めて重大なことに気付きました。

私の地元から○○県にくるまでは車を使っても1時間以上はかかります。
父が迎えに来てくれてのは最後に電話してからだいたい1時間~2時間ぐらい。
けれど、父は警察にも電話したって言っていたし、GPSを何回も試し地図で調べてきたとも言っていた。

・・・そんなに早く私を迎えに来れるものなのでしょうか?

私の思い違い?それにしてもその時の父は明らかに変でした・・・。

私:「お父さん?一回車止めて・・・?」

父?:「・・ブツ・ブツ・・・」

私:「え?」

父?:「・・早く・・行かないと・・。・・・俺の・・せいで・・ブツ・・ブツ・・・。」

ゾクっとしました。
それは明らかに父の声のソレではありませんでした。
低くて唸り声のような・・。

”降りる場所を間違えたら・・・”

不意にそんな言葉が脳裏をかすめます。

『私の前にいる父は父じゃない。このままだと変なところに連れて行かれてしまう。逃げなきゃ。逃げなきゃ。』

私はそのことを一心に考え、車がカーブに差し掛かりスピードが落ちた折、意を決して車から飛び降りました・・・。

その後について書きます私が次に目覚めた場所は病院のベッドの上でした。
そこは市街の病院らしく、医師の先生に話を聞くと山間部のほうの車道脇に倒れていた私を通りかかった人が見つけ、救急車に連絡してくれたそうです。

親に連絡をし迎えにきてもらい私は今度こそ家路につくことができました。
不思議なことに、父に昨日のことについて尋ねても何も知りませんでした。
父は電話なんてしてないし、それどころか私から会社に泊まると連絡がきていたそうです。

私が会った父は誰だったのでしょうか。
それに電話口の父やあの男の子、無人駅・・・。
結局のところ何も分からなかったし、これからもこのことについて知ることないと思います。

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