群生轢死

カテゴリー「不思議体験」

不思議系の話を一つ。
確か小学生になったばかり位の頃。
当時の記憶なんてほとんど薄れてしまっているが、一つ強烈に焼き付いているものがある。

夏の時期だった。
今は亡き祖父と共に山へ行き、祖父は畑仕事、俺はその間辺りを探検という名の散歩をしていた。
アスファルトで舗装された細い道路を川へと向かう。
多種多様な生き物が数多く住まう山の中、道路上には色々な生き物の轢死体がポツポツと散らばり蟻の餌となっていた。

毛虫の死体を見つけては気持ち悪がり、クワガタ、カブトなら勿体無いと悔しがり、蛇を見ればスゲえ!と声をあげつつ進む中、ふと先を見ると、今まで灰色だった道路がとある区間だけまるで枯葉を散りばめた様な色となっていた。

範囲としては30~50mてとこだろうか・・・。

あそこだけどうして?と気になり走って向かったところ、近づくにつれそれの正体が分かった。

バッタだ。

トノサマ、ショウリョウ、イナゴ、オンブ、キリギリスにウマオイ・・・。

大小種類様々なバッタの轢死体が一面隙間なく広がり、更にその上をもぞもぞと生きてるバッタ達が蠢いていた。
童心にも異様と感じれる光景に呆気にとられてる最中、1台の車が通過していったのだが、バッタ達はジャンプして逃げる事もなくただプチプチと潰され、道路に新たな模様を刻み続けていた。

道の脇は草むらなのになんでそっちに逃げないんだろう?
草むらに行きたくないのかな・・・。

そうだ!
きっとこの草むらにはカマキリが沢山いてそれでバッタが怖がって行きたがらないんだ!

何故かその光景を見た時に、バッタ達が草むらを恐れ、道路に逃げ出しているという確信があった為、バッタが怖がる=天敵がいる=カマキリというアホな方程式が組み上がり、嬉々として藪の様な草むらに飛び込み、夢中で探し回ったのだが、そんな思惑も虚しく結局見つける事はできなかった。

なんでいないんだ!
そう悔しがると同時にふと、違和感に気付いた。

カマキリどころではない、草むらに生物の気配が全く無いのである。
本来夏山の草むらに飛び込もうものなら、小さな羽虫達が一斉に飛び立ち、逃げ惑うはずなのだが、それが一切無いのである。

自分の知ってるものと違う生気の無い草むら、道路一面に広がるバッタの死骸と蠢く姿を思い出すと気持ち悪くなり、帰ろうと思ったのだが、気付けば大分深くまで来てしまったようだ。

一度道路まで出て戻ろうとしたが、そこはもうバッタ絨毯のど真ん中。
通るものなら、死骸や生きてる奴らをブチブチ潰しながら歩かなくてはならない。
生物大好き少年と言えど、さすがにそれは気持ちが悪過ぎる・・・。
諦めて草むら伝いに戻る事にしたのだが・・・おかしい。

草むらが長過ぎるのだ。夢中になっていたということを考慮しても本当にこんな歩いたのか?と疑問に感じる程であった。

周りを見渡したところで、子供の背丈では鬱蒼と生い茂った草しか見えない。
おそらく自分が進んで来た軌跡であろう、かすかに沈んだ草の跡だけを頼りにひたすら進むのだが、延々と続く様な草むらに、もしかして迷って帰れないんじゃないかと不安になる。

動揺と恐怖で泣き出しそうになっていると、突如目の前を小さなものが横切った。
思わず目をやりじっと見ると、どうやらそれは米粒程の小さなバッタのようだ。

自分以外に動く物を見つけた嬉しさに、先の奇怪な光景や恐怖も忘れてバッタの方へと向う。
草むらの中で近づいては逃げられるという追いかけっこを繰り返えしていくうちに、突然周りからそのバッタ以外の虫達が飛び上がった。

飛び交う虫達を見た途端、出られた!と直感し、そのまま道路まで出ると一目散に祖父のもとへ逃げ帰った。

祖父はなんの収穫もなしに走って帰って来たのを見て怪訝そうな顔をしていたが、先の話を伝えると、しばらく考えた後に、「きっと誰か薬でも撒いたんだな。それで虫どもは嫌がって道路に出てたんだろう。それに帰りは登り道だし、怖い時や嫌な時ってのは時間が長く感じられるもんだ。まぁ、体に薬がついたかもしれんから風呂に入るぞ」と言うと小屋に向かい、そのまま冷水で丸洗いされ、衣服は同上の理由により畑で燃やしていたのを覚えている。

当時は祖父の説明で納得したものだが、周りの環境も理解できるようになり、改めて思い出すと様々な疑問が生じる。

あの道路周辺には所々に畑や田んぼがあり、周りに広がる恐れがある為、基本薬品類は撒かずに、除草するにしても刈払い機を使うのが常識となっている。

例外的に外来種の毛虫等、木々の被害が酷過ぎる時には使用することもあるが、その場合付近に薬品散布の目印を立てる上、薬品が滴る様な散布直後の状態でもない限りは、虫が全くいないという状況はない。

仮にとんでもない劇薬を撒いたのだとしたら植物にも影響はでるはずだ。
そもそもあんな放置された草むらにわざわざ手を入れる必要性もなければ、逆に手を入れるべき畑や田んぼは普段と変わらず生き物が湧いていた。

道路に蠢くバッタ達にしろ、あの区間のみに集約してただけで、その年に大量発生したということでもない。
そしてそれらの疑念は他でもない、祖父自身が一番に分かっていたはずだ。
子供の戯言と相手にしなかったのか、それとも他に何か理由があったのかは今となっては知る由もない。

その後も毎年夏に何度となく近辺を通る事があったが、同じような情景にあう事は無く、草むらも現在は整地され畑となってしまった。

だが、道路一面に広がりただ潰されていくだけのバッタ達、青々としているが生気を感じることのない草むら、そして笑いながらも、有無を言わせない強い力で小屋まで一直線に俺を引っ張っていく祖父の姿・・・。

あの夏の思い出だけは20年近く経つ今でも鮮明に焼き付いている。

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