彼女の転校先を誰も知らない

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

中学のとき、学校に来ない女子がいた。
虐めでも非行でもなく、単に学校に来ない。
携帯の普及してない時代。
自宅に電話がないそうで、連絡網は彼女の家に一番近い同級生が自宅に直接行っていた。

たまに学校に来ていたが、皆ふつうに接していたし向こうもごく自然に過ごしていた。
ただ、ひどく煙草臭かったのを覚えている。

私は出席番号が近く、同じ班になることが多かった。

「髪を自分で切ったんだよ。結構うまいでしょ?」
「制服の夏服が無いから夏がきたらどうしよう」
「冬スカートに冬ブラウスでもいいって先生言ってた!成長期はすぐサイズ変わるからって!やったあ!」
「ジャージがなくて体育に出られないから休むの。でも、運動得意じゃないからラッキーかなあ」

こんな言っていたのを覚えている。

ある時、その女子が転校することになった。
クラスの仲が悪いということは無かったので、自然とみんなで何か記念になるものを贈ろう!となり、一人200円ずつ出して腕時計を贈ることになった。
腕時計を欲しいと言っていたのを私を含め何人かが聞いていたから。

ちょうどクラスに時計屋の子がいて、その子のお父さんがかなり割り引いてくれた。
転校の挨拶にきたときに皆で時計を渡した。
転校していく彼女からは一人一人に手紙を貰い、それは模造紙や綺麗な包み紙を星の形に切った手紙だった。
そして彼女は転校していった。

それからしばらくして聞いた話。
時計を渡したその日の夜に、彼女の父親が時計屋に来たそうだ。
時計を返品しに・・・。
そして時計屋(同級生のお父さん)は返品を受け付けた。
割り引いた分も乗せて返金した、と。

時計屋の子も家にいたからそれを知ってたけど親に口止めされてた。
考えたら、彼女の転校先を誰も知らなかった。

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