オレってばアウトドア好きなんだけど、その中のひとつに逃避旅ってのがある。
年に一度、夏になったら自転車にテントを積んでひたすら走る旅のことだ。
現実逃避なのでもちろん目的地はない。
行き当たりばったりなので、これまでいろんな所で野宿をしてきた。
そんな旅の中で体験した、怖い思い出。
俺がまだ二十歳そこそこの頃。
お盆休みを利用して長野の避暑地へ逃避旅に出た。
テントに寝袋、必要なものを全部ロードバイクにくくりつけ、オレはひたすら走った。
どんどん街からは離れ、夕方になる頃にはもうすっかり山の中だった。
そろそろ野宿ポイントを決めようかなと思い、オレは近くにある湖へと向かった。
そこは県内でもそれなりに有名な観光地なため、湖のそばには食堂や売店もある。
ちょうどいいや、と俺はそこで飯をすませて、テントを張ろうと人気のない山の方へと向かった。
観光地とは言っても夜になると無人になる。
ましてや少し離れると本当に静かだ。
俺は早々にテントを張り、寝袋へともぐりこんだ
その夜、ふと目が覚めた。
たしかまだ夜中の1時ぐらいだったと思う。
寝付けそうになかった俺は、仰向けのままボーッとしていた。
キャンプ経験者ならわかると思うが、夜の山ってのは独特の雰囲気がある。
日常生活では決して味わえない感覚なんだけど、その夜はどこかおかしかった。
真夏だというのに、虫の声ひとつない。
そして・・・「なんか気味悪いな~」と思っていたその時だった。
誰かがテントを押した・・・。
ヌッと外からテントを押す手が、月明かりに照らされて見えた。
おおっ!?と声が出そうになるが、必死に押さえる。
頭のおかしい奴か?と俺は身構えた。
起きてるとバレたら、何をされるか分からない。
手の主は、独り言のような、うめき声のようなものを上げながらテントの周囲を徘徊している。
そして手でまたテントを押す。
勘弁してくれ・・・と思ったその時、またひとつ気付いた。
テントを張った場所は山。
地面には草が生え、木の枝もたくさん落ちている。
だけど、足音が一切聞こえない。
聞こえるのは声だけ。
そんなのありえない。
それに気がついた時、どっと全身から冷や汗が出た。
得体の知れないそいつは、こちらを伺うようにしてテントから離れない。
息づかいですぐ近くにいるのがわかる。
俺は必死に声を押し殺して、朝になるのを待った。
あたりが明るくなる頃、気がついたら奴の気配が無くなっていた。
俺はかつてないスピードでテントを回収して帰った。
後になってから複数人いたような気がするけど、もうどうでもいい。
とにかく、山というのは不思議なことがたくさん起こる。
皆さんも山に入るときは気をつけて。
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