高校の時、一年間、アメリカにホームスティしてた。
友達と一緒にお世話になった滞在先は、とても感じのいい夫婦と中学生の娘が一人。
彼らはキリスト教徒で、たまに日曜日に教会に行く程度。
私達にも強制的に勧める事もなく、「もし興味がわいたら、いつでも連れてってあげるからね」という感じで、本当に穏やかで親切な人達だった。
クリスマスが近づいてきたある日、ホームステイ先のお母さんから、「近々、教会でクリスマスの劇があるから行かないか?」と言われた。
正直、私は最初は渋ってたのだが、友達が興味を持ち「行きたい」と言い出し、私も『普段はかなりお世話になってるんだし、クリスマスだから案外楽しいかも』と思い、連れて行って貰う事にした。
ところが着いてビックリ、劇はショート・ショートなのだが内容は全て一緒だった。
二人の男が出てきて、生前のシーンを再現する。
一人は金持ち、一人は貧乏。
だけど金持ちの方は教会には多額の寄付をしているが信仰心ゼロ。
一方、貧乏人の方はお金はないけど、毎日、神に感謝しながら生きている。
この二人が同時に何かの事故で死ぬ。
死後の世界、彼らは天国の門の前に立ってて、天使が天国行きの名前が書いてあるリストを持っている。
結果は当然、貧乏人は天国行き、金持ちは載ってないので地獄行き。
この時、いきなり大勢の赤と黒の装束に身をまとった人達がソデから出てきて、金持ちをひきずって行くのだが、音楽や照明も怖く、小さい子は泣き出し、高校生の私でもビビった。
そしてこんな内容が延々と3時間も続いた。
劇が終わってから、神父さんが「この劇を見て、悔い改めたい方はどうぞ私の後をついてきてください」と言って、ある部屋に希望者を集めた。
私は正直、劇に関してはムナクソ悪く思ってたのだが、見事に友達が洗脳されてしまい、死後、自分が地獄に行くのではないかと怖がってた。
すると、それを合図にせきを切ったようにホームステイ先のお母さんが、「そうよ!今すぐ、神父様達が集まった部屋にいきましょう!入信すれば死後の世界であなたは天国にいけるわ。無心論者や他宗教の人達は天国にはいけずに、地獄に落ちてしまうのよ。それでもいいの?今までどんな罪を犯してても、今ここで入信して神様に悔い改めれば、すべて許されるのよ。そっからまた毎日、感謝をして生きていけば立派な信者になれるわ!もし入信せずに明日、死んだらどうするの?あなたは地獄に落ちて、ずっと苦しむのよ、それでもいいの?」とマシンガントークをした。
洗脳された友達は震え上がって、ホームステイ先の人達と一緒に部屋に行ってしまった。
私にもかなりしつこく勧めてきたが、かなり引いていた私は強く断り、一人で彼女の入信が終わるのを待っていた。
正直、劇の内容にも引いたが、一番、怖かったのは、普段とはうってかわって豹変したホームステイ先のお母さんの態度だった。
いつもは大声も出さず、ニコニコこと穏やで何一つ私達に強制しなかった分、そのギャップは更に私の恐怖を煽り立てた。
帰ってきた友達に車の中で「本当にあれで良かったのか?」と聞くと、本人は満足そうな上、ホームステイ先のお母さんに「同意の上だから何も問題はないのよ」と言われた。
確かにそうなのだが、今思い返しても、クリスマスの出来事は私にとっては後味の悪い話です。
Be the first to comment