病院では相次いで死人が

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

・・・実話でないと信じたい。

妊娠した妻が定期健診のため、とある産婦人科に通って数ヶ月のことだった。
ホスピタリティを重視してのことか、マタニティ専用の部屋というか、共有ルームみたいなものを設置していた。
総合病院だったため、設備に余裕があったからだと思う。
妻はそこで妊娠を控えた女性と共に、いろんな話を共有するのが日課になっていた。
いわゆるママ友みたいなものなんだろう。
俺も食事のときに、そこで話されたことをいろいろ聞かされていた。

ある日、妙な話をし始めた。
今思い出しても奇妙な話だ。

どこのコミュニティにも仕切り屋というか、リーダーのような人物がいるものだが、俺の妻のママ友たちの中にも例に漏れずそういう女性がいた。
自分磨きや女性らしさの追求を述べるこの女性は、外見だけでなく内面も洗練するべきとの考えから、デカルトではなくユング的発想、つまりはオカルトのようなことに凝りだしたそうだ。

それは簡単な占いからはじまり、霊的な癒し、果ては黒魔術チックな呪術と話しだす彼女に対し、妻は一線を画すよう心がけていたらしい。
オカルトについては私も少し興味をもっていたことから、興味本位で黒魔術について問いただしたことがあったが、猫の死骸や害虫の収集などの話がなされたことから、打ち切りをお願いしたことを覚えている。

話を戻す。
そのリーダーは、身籠る子供の先天的可能性について述べはじめた。
要は、子供の将来は生まれた瞬間から決まっているという話で、その運命を最高のものにできる秘術があるということだった。
呪術や秘術なんて胡散臭いものに興味をもつママ友は誰ひとりいなかったそうだが、生まれてくる子供たちの将来については、祝福されたいという思うのは当たり前のことだったみたいだ。

よくわからない話(妻も聞き流していたことから詳細は覚えていないらしい)が続けられた後、一人のママ友がこう言った。

ママ友:「うちの子供の運命は今以上に良くなるの?」

リーダー:「私の言う通りにすれば良くなるわよ。それにはみんなの協力が不可欠だけど。●●●●様を呼びだすの。●●●●様は運命の神様。神様に選ばれた子供は皆素晴らしい人生を送ることになるわ。もちろん呼びだすのは並大抵の苦労じゃない。選ばれるのはそれ以上の苦労を要するわ。でも、その見返りは私たちを最上の喜びへといざなう。だからみんなで協力し合いましょう。●●●●様の加護のもと」

妻はその話を聞く中で頭がクラクラしてきたらしい。
ちょうど診察順が近づいていたこともあり、先に抜け出してきたそうだ。
後ろを振り返ると、数人のママ友がリーダー格の女性の話に対し身を乗り出して聞いていたそうだ。

「気持ち悪いでしょう??」と、その日の夕ご飯を食べながら、妻は俺に話しかけてきた。
俺が夜遅くまで残業をしていた日に、起きていてくれてまで話してくれたことだったから、俺は強く記憶に残っていた。

数日後、その病院で死人が出た。
死んだのはまだ小さな子供だ・・・。

警察の調べによると事故の可能性が高いとのことだった。
奇妙なのは、その子供の親の態度だ。

子供の親は、妻のママ友の一人だった。
自分の子供が死んだ。
その事実はとてもじゃないが受け入れられるものだとは思えない。
にもかかわらず、その親は笑っていたそうだ。
にやにやにやにやと。
端正で整った顔立ちが笑顔に歪む様子は、妻に恐怖心を抱かせたらしい。

それ以来、病院では相次いで死人が出るようになった。
他の診療科ではない。
産婦人科で、だ。
出産間近の妊婦が流産、しかも妊婦も死亡。

早産により子供(男)がNICU行きになったのだが、問題なく助かったと思った矢先、子供の母親が自殺した。

その数日後、その夫も死んだ。
同じ部屋で自殺したそうだ。

直後に看護師が相次いで事故にあい退職。
産婦人科医も一人、過労で亡くなった。
その病院に関わること自体が恐怖だった。

妻はそこに近寄らないようになった。
俺もそうするよう強く言った。

ただ、ママ友の一部はそれでもその病院に通い続けたらしい。
いや、病院というよりは、ママ友が集まる共有ルームに通い続けたらしかった。

その後、ママ友は全員流産したそうだ。
そのうち2名は母体自体が損壊し、二度と子供が産めない身体になった。
ただ一人、リーダー格のママを除いては。
彼女は都内のまったく違う病院で、玉のようなまるまると元気な男の子を産んだらしい。
有名私立幼稚園に通わせようと、そういう連中が集まるコミュニティでいろいろ頑張っていると聞いた。

先天性の障害を抱えている妊婦が集まるこの総合病院で、なぜ彼女の子供は全く障害のなかったのか。
それは俺にもわからない。

ただひとつ。
結果的に、うちの妻も流産した。
21トリソミー(ダウン症候群)の影響だそうだ。

こんなことになるなら、●●●●様とやらに選ばれてほしかったと今では心から思っている。
そんな裏技がこの世にあるなんて、むしろ実話でないと信じたい。

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