小さな頃の話で、今じゃ確認のしようのない話ですが、自分にとって洒落にならない怖い話だったので書きます。
これは私が小学校2年生くらいの記憶なのですが、当時私の親は共働きで、学校内にある託児所的なところに預けられていました。
私たちはその託児所を『学童』とよんでいました。
普段は学童でおやつを食べたり、宿題をやったり遊んだりして、5時になると友達と一緒にそれぞれ家に帰ります。
しかしその日は、普段の遊びにも飽き、たまたま友達の少ない日だったので、友達のAとBと私の3人で学校を抜け出そう、という話になりました。
抜け出して向かう先は、『キューピーハウス』と私たちの間で呼ばれている、心霊スポットのようなところです。
そこは、いつも石屋の隣にある人が、長い間帰ってきていない家でした。
その家にはガレージのようなところがあり、そのシャッターの部分には、恐らく新聞や手紙などを入れるであろうポストがありました。
私やみんなはそこから中を覗いていたりしていたのですが、中は壊れた椅子や人形などが散乱していて、とても怖い雰囲気が漂うところでした。
時間は3時半。
私たちは、隣の石屋のおじいさんに見つからぬようこっそり家の敷地に入り込み、花壇や塀をよじ登り、ベランダから二階にあがりました。
普通なら、窓の鍵は締めてあるはずです。
ですが窓の鍵は開いており、すんなり中へ入ることができました。
中はとても荒れていて、もうこのときからAは怖がり、「帰ろう、先生に怒られるよ」などと言っていましたが、私とBはもう気分は冒険家で、ぐんぐん奥に進んで行きました。
私たちは2階を全体的にぐるっと見て回りました。
部屋は3部屋。
私たちが一番最初に入った部屋は、どうやら女の人の部屋です。
何となく綺麗で、かわいらしい犬の置物などが置いてありました。
次に見た部屋はベビーベッドが置いてあり、赤ちゃん用のおもちゃが物凄い量散乱していました。
ぱっと見た感じ、あのキューピーの人形が多かったような気がします。
おもちゃはぼろぼろで、なんだか訳の分からない黒ずんだ液体がこびり付いていました。
もう1つの部屋は、何も家具の置かれていない空き部屋でした。
そして次に、私たちは1階に降りました。
リビングは雰囲気洋風な部屋で、立派なソファーが置かれていました。
この家には赤ちゃんがいたんでしょう・・・赤ちゃん用の机や椅子、食器などが床に転がっていました。
私はBと大はしゃぎしていましたが、AはBの服にしがみついたままでした。
書斎やトイレ、キッチン等を一通りみて回りましたが、特に変わったところは見当たらなく、「じゃぁもうそろそろ学童に戻らないと怒られちゃうから、最後に風呂場をみて、玄関から帰ろう。続きはまた今度にしよう」ということになり、それに従い風呂場を見に行くことにしました。
脱衣所に入る前に、Bが「なにかあった時の為に玄関の鍵開けておこうぜ!」と言い出し、風呂場からすぐ近くの玄関の鍵を開けました。
外はすでに暗くなり始めていました。
私たちは全く時間がわかりませんでした。
風呂場に入ると、酷く何かが腐ったような臭いがしました。
果物とか野菜とかが腐った臭いではなく、動物の死骸が腐ったような臭い・・・。
鼻が曲がりそうになるくらいの酷い臭いでしたが、怖いものを求めてきた私とBは、「もっと何か怖いことが起こればいい。学校で噂になればいい。最悪、誰かが死んでもいい。」と考えていました。
Aはもう怖いし臭いからここには居たくないといい、風呂場の外に居ました。
不思議なことに、一歩でも風呂場の外に出てしまえば、全くの無臭だとAは言いました。
風呂桶には蓋がされていました。
白いプラスチック製の蓋でしょうが、黒く変色・・・というより、2階で見たおもちゃのように、何かの液体がこびり付いていました。
2人で開けようと持ち上げてみたのですが、とても重く、びくともしません。
蓋は2枚あり、どちらの蓋も開きませんでした。
指を蓋と浴槽の間に入れようとしたとき、私の爪の間に何かが入ってきました。
「気持ち悪っ!」と指を見てみると、細く短い髪と長い髪の2本が、中指の爪の間に入り込んでいました。
当時、怖がるのは格好悪いと思っていた私たちは、「もう飽きたし、全然怖くねぇから帰ろうぜ!」と、怖くないふりをしていました。
しかし、開けてあった風呂場のドアは、いつの間にか閉まっていたので、Aの悪戯だろうと思って、「おーいーAやーめーろーよー先生に言っちゃうよ」と、ドアの外に向かって叫びました。
が、Aの声は聞こえませんし、人の気配もしません。
ドアは曇りガラスのようになっていたので、人が前に居ればシルエットで分かります。
本気で怖くなり、半泣きになりながらドアを叩き、Aに助けを求めました。
しかし、どんなに叫んでも気づいてくれません。
ここにいれば誰かが助けてくれるだろう・・・と考えて、2人で救助を待つことにしました。
体育座りをして浴槽に寄りかかりながら、ドアの方を向いて待ちました。
10分くらいでしょうか。
Bが泣き出してしまいました。
「助からないとか、死んでしまうとか、Aはもう生きていないとか」ネガティブなことをずっと言っていました。
すると、後ろの浴槽から音がしました。
怖くて後ろを見ることができませんでした。
また音がします。
濡れた布と布を擦ったような、「ぬちゃ・・・」というか、「ずりゅ・・・」という感じの音です。
思い切って後ろを見ると、蓋が片方ずれて開いています。
もう何が何だか分からなくなり、もう一度ドアの外に助けを求め叫びましたが、誰も応えてくれませんでした。
音はまだします。
蓋があいている分、直接聞こえるというか、とても聞こえやすくなっていました。
もうBは俯いたまま、ぶつぶつと何か言っています。
聞き取ることはできませんが、Bの声ではなかったと思います。
Bの声は、女の子のようなかわいらしい声をしていた記憶があります。
しかしその時の声は、低くくぐもったような、そんなような声でした。
ドアに背中をつけ、浴槽を凝視していました。
何かが出てくるような気がしていたからです。
こんなところに入ってきてしまったことを、もう心の底から本気で後悔しました。
家に帰ったらお母さんと先生に謝ろう・・・そう考えていました。
音はずっと聞こえています。
浴槽を凝視し続けてどのくらいたったかは分かりませんが、音は鳴りやみません。
すると、小さな手、赤ちゃんの手のようなものが、開いた蓋の隙間から見えているのに気付きました。
・・・私は思わず嘔吐してしまいました。
Bは未だに何かぶつぶつ言っています。
「B!おい!逃げようよ!ねぇB!」と、肩を掴んで揺さぶりましたが、目は虚ろ、口からは唾液が垂れていました。
私は本気で泣いていましたが、ドアの向こうに人の気配がしました。
浴槽からはさっきの音とは違い、うめき声のようなのが聞こえて「うあぁぁぁ・・・」とか、「ぎぃぃ・・・」と、とても気持ち悪かったです。
誰かが助けに来てくれた!と思い嬉々としてドアの方を見ると、曇りガラスに顔と手を押し付けた女の人がいました。
前髪を真ん中から分けた短めの髪の女が、大きな口を開けてこちらを見ています。
顔をべったりと貼り付けているので、どんな表情なのかはっきりわかりました。
口が動きだし、何か言っているのが分かります。
言っているのは分かるのですが、内容はわかりませんでした。
私は怖すぎてその女から目を離せません・・・。
女は両手をゆっくり、物凄くゆっくりあげたかと思うと、すごい力でドアをドン!とドアを叩きました。
私はそこで気を失ってしまいました。
目が覚めた時、私は自宅の布団に寝ていました。
誰もいない部屋で一人でした。
急にとても怖くなり、部屋を出ると居間には母がいました。
母は泣きながら私を抱きしめて、あの時のことを話してくれました。
どうやら私は、1、2時間あの家にいたつもりだったのですが、2日近く”あそこ”にいたようです。
Aは私たちを置いて先に家に帰ったそうですが、翌日学校に私とBが来ておらず、先生から2人が失踪したということを聞かされたそうです。
Aはその日は怖くて先生に言えなかったそうですが、家に帰り親にあの日のことを話したそうです。
警察が助けに行ったとき、私は風呂場で気絶していたそうで、母の話によると、左のふくらはぎにとても小さな歯形があったそうです。
そこで私は母に、「Bは?B変なんなっちゃって変なことずっと言ってて・・・」と泣きながら聞きました。
すると母は、「B君は今病院にいる。B君に会いたい?」というので、私が会いたいというと、「じゃぁ明日会いに行こう。でも、B君を見ても泣いちゃだめよ?大きい声も出しちゃダメ。いい?約束だからね?」と、とても怖い顔をして言いました
翌日Bに会いに行くと、案の定あの時のまま、不気味な言葉をベッドに座ったまま言っていました。
私はそれ以来、怖くてBには会っていません。
なんだかとても申し訳なく、また、あの時のことを思い出してしまうからです。
Aとはまだ連絡をとっていますが、Bの話はタブーみたいな雰囲気で話すことができません。
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