壁と話す男

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

この前エレベーター乗ろうとしたらさ、男がいたのよ。
後ろ向きで。

エレベーターに人がいても驚かないけど、後ろ向きで乗ってる人ははじめて見たからちょっと驚いた。

一瞬戸惑って乗ろうか迷ったんだけど、掲示物見てるとかだったら失礼だし、みたいなつまらない気をつかって乗ったの。
でもそいつなんかブツブツ言ってるから背中向けたくねえと思って壁を背にして横にポジションキープ。
ちらっと見たら、直立姿勢のまま壁まで10cmくらいまで顔近づけてて憤怒の形相。
鬼のような顔ってのはあのことだね。

『南無三!』と唱えて早く一階に着くことを祈ったw

八階だから下まで結構時間かかる。

男:「だーかーらー、貴様が言うか!ボケェ!」
男:「お、お、お俺のせいか!?あ!?」

ブツブツっていうかもう怒鳴ってるよね。
まだ6階かよー・・・と一階一階嫌な汗かきながら数えてた。

ようやく一階についてそそくさと逃げたんだが、離れてからエレベーター見ると男は降りていない様子だった。

翌月くらいかな、またそいつに会った。
今度は地下通路で壁と話してた。
それから頻繁にそいつを見るようになって、とうとう自分家の近所にまで現れた。

『やばい、キチに狙われてる?』と膝ガクガク。
たまたま友人と歩いてたときにそいつがいたから、「またいるよ、あいつ」と言ったところ友人が「誰?」と。

俺が「そこで壁と話してるやつだよ」と言っても「誰もいないじゃないか」と。

そこで初めて『この世のモノじゃねえ!』と気づいた。
そういえば会社のエレベーターで見たときも残業で一時過ぎてたしな、となんだか納得。

幽霊なら刺されることもないだろうと逆に安心した。
そしたら、とうとう家のドアの前に現れた。

ドアと話してるからドア開けられないし、一旦逃げようとコンビニへ。
戻ったらいなかった。
次の日は家の中に現れた。
冷蔵庫と話してた。

家には出ないと思ってたから、流石に怖くて、キッチンの塩ふってみたけど効果無し。
諦めて寝ようとしても怒鳴り声が煩くて眠れない。
すっかり寝不足。

ムカついたから「うるせえんだよてめえ!消えろ!」と怒鳴りつけた。
次の日寝てたら顔のまん前に現れてブツブツブツブツ。
精神的にかなり参ってたと思う。

俺は「なんなんだよてめえ!俺がなにかしたのか?ふざけんなよ!」と、そいつが現れる度に怒鳴り合ってた。
んでね、ある日それを友人に見られまして「お前壁と話してたよ・・・」と。

ああ、なんか合点がいった・・・。
そういうことか・・・と。

直ぐ様病院へ行きました。
精神病だと思ったんだよ。

結果は脳の血管が塞がってなんちゃらかんちゃらで、バイパスが出来て助かったけど危なかったと言われました。
あれが幽霊なのか幻覚なのかは分からず仕舞いです。

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