松茸泥棒

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

俺の田舎の話。
実家の裏山は松茸山だった。

所有者はうちのじいさんだが集落全体で管理し、利益を分配する。
松茸山には泥棒がつきものだが、裏山にもそんな奴らが度々忍び込んでいた形跡があった。
けっこういい収入になるので、見回りなんかもマメに行われていた。

大人の仕事場、と言われて子供は立ち入り禁止の裏山だったが、集落のガキにとっては手頃な洞穴があったりしていい遊び場だった。

ある日、遊んでいる最中猛烈にウ●コがしたくなり、人気の無いことを確認して松の木の根元で野糞を敢行することに。
見つかるとコトなので辺を見回しながらクソを垂れていると、少し離れた沢の下側からオッサンが歩いてきた。
集落のオッサンではない。
この山で知らない人間といえば松茸泥棒だ。

相手は一応犯罪者。
見つかると何されるかわからないと思い、クソをしながら茂みに身を隠した。

じっとオッサンの動きを見ていると、もう一つの足音が聞こえてきた。
沢の上側からスコップを持ったもう一人のオッサン。
こっちは知ってるオッサンで、うちの分家のAさんだった。

Aさんは泥棒に近づき、何やら会話をしている。
諭しているような感じで、泥棒も観念したのか背中のザックを地面に下ろした。

泥棒がザックを開けようと屈んだ瞬間、Aさんはスコップの背で泥棒の頭を思い切りブッ叩いた。
あまりのことに出るものも出なくなっていた俺は、ケツを出したまま固まっていた。

泥棒はそのまま前かがみに倒れ、Aさんはザックを持つと泥棒には目もくれず沢を下っていった。

翌日もその次の日も集落内で泥棒の話は出なかったし、Aさんも普通に畑仕事に精を出していた。
泥棒がどうなったのかは知らないが、警察沙汰にもならなかったしどうにか自力で山を下ったんだろう。

ただあのとき、一瞬だけAさんと目が合った気がする。
普段は陽気なスケベ親父のAさんだが、あのときはひどく無表情で本当に怖かった。

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