ある夜、通り魔が女を殺した。
女のそぶりがよほど気に入らなかった通り魔の男は、最後には手近なロープで女を木に縛り付けると、元々持っていたナイフを捨て、爪でいたぶって殺した。
翌朝、野次馬に紛れて男がその場所に行くと、なぜか、苦悶の表情そのままの女の顔がそこにあった。
血の染みにまみれて、木のシワとして。
男は誰かの言葉を思い出す。
木の下で人が死ぬと、血とともに魂を、木が吸い上げると。
女の顔をしたシワを見て、惨めでありいい気味だと、男は心の中でせせら笑った。
せいぜい死んだ後も苦しめ。
手も足もなしに、復讐出来まい。
俺を呪い殺せるものなら、呪ってみろ。
男は帰宅すると、昨晩使ったナイフを取り出した。
あの顔のサビが浮き上がっていれば愉快だと思ったが、自分の目をそこに映しても、何の痕もない。
ちょっぴりつまらない気持ちでいると、男は突然ナイフを落とした。
手に力が入らない。
というより、意志に反して独りでに力が入る。
手が、勝手に動き男の首を絞めた。
・・・一体どうなっているのか!?
男は血相変えて洗面所に走り鏡を見るが、何もおかしな物は見当たらない。
やはり、自分の腕が自分の首を絞めていた。
ふと違和感に気付くと、爪に不自然なシワ。
それはよく見れば、木のシワとして浮かび上がった女の顔と瓜二つだった。
男には心当たりがあった。
昨晩、あの女を爪でいたぶった事を男はよく覚えていた。
女の血を吸い上げたのは、あの木だけでは無かった・・・。
女の顔がゆっくり、爪ごと男の首に沈んでいく。
見えなくなる直前、一度だけ口を開いた。
「つかまえた」