急患の正体

カテゴリー「心霊・幽霊」

小学校4年の時だったかな。
雨の降る中、猛スピードで友達のマンションへとチャリンコを漕いでいた。

「早くスマブラ(大乱闘スマッシュブラザーズ)やりたい!」

焦る気持ちが俺を駆り立てた。
チャリをマンションの裏手に止めると、全速力でエレベーター前のドアの前まで走る。

とその時、「やべ!雨で滑ってブレーキ効かねっ!」、思うや否やバリーン!!!と、ドアのガラスを身体で突き破る。

気分はもうトム・クルーズ。

よし、割っちまったがこの件に我々は一切感知致しません・・・と逃げたい気持ちだったが、ミッションも虚しくインポッシブルし、マンションの管理人がすっ飛んでやってきた。

トム・クルーズでもスタントマンでもないので身体のあちこちから激しく出血してる。

「あーあ、これは帰ったら飯抜きどころかはっ倒されるな」と頭の中では出血よりその後の説教の心配でいっぱいである。

その間に管理人には救急車を呼ばれ、間もなくして救急車到着。
かくして人生初の救急車乗車である。

救急車は進行方向にいる車を次々に端に寄せて走って行く。
救急車の優越感は感じつつもやはり説教が頭から離れない。

病院に着くと救急車専用の裏口から運び込まれた。
手術室みたいな所に寝かされ、身体に付着したガラスの破片を取り除き、傷の縫合にうつる。

しかし、あろうことか医者は来るなり「あー、2、3針縫うくらいなら麻酔要らないね」と答えも聞かず針で縫い始めた。
確かにもう既にガラスで切っているので、そこを更に針でぶっ刺されてももはや大した痛みではないんだけど。

「マジかよ」と気分はすっかりブルーになったころ、俺が運ばれてきた救急車専用の入り口のドアが開いた。

「急患かな?仲間かな?」と頭をそっちに向けると、女の人が歩いて入ってきた。

その人は鶏の様に頭を前後に降りながら歩き、さらに顔から肘まで炎症でかパンパンに膨れ上がっており、更に固まった血のような真っ黒な色をしていた。

「すげぇな、おい。本物の急患だな。俺が呑気にここに居るのが恥ずかしくなるわ」

なんて思いながらも女の人の傍には誰も看護師がついていなかったので「あの・・・あの人入ってきたみたいだけど、誰か面倒見なくて良いの?」と縫ってる医者に聞くと、ギョッとして、一瞬で青ざめた顔になり、震える声で「気にしなくて良いから」と言われた。

もう一度顔を向けると女の人は消えていた。

俺が初めて幽霊らしきものを見た時の話でした。

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