かれこれ30年以上続く話。
自分の父親は5人兄弟で父親は次男なのですが、そんな父親が10歳の時。
駄菓子屋からの帰り、もう門限の夕方6時も過ぎようとしていたので急いで自転車を走らせていたそうです。
父親の父親(つまりは私の祖父)は自営業を営み、相当なガンコ親父。
門限を過ぎたとあらば、容赦のない鉄拳がとんでくるような人でした。
涙目になりながら自転車を走らせ、交差点に差し掛かったときにいきなり交差点の右の道路から、自分よりもずっと速い速度で自転車が走ってきました。
避けようとして思わず転んだ父親が「あぶねーなー・・・」なんて思いながら自転車を立て直しているとき、気付いたらしいのです。
足がない・・・。
家に着いたのは6時過ぎ。
諦め混じりに父親は祖父に今あった出来事を説明しなんとか鉄拳を免れようとしました。
もちろん祖父がそんな言い訳の通じる相手ではないことは父親が一番よく知っています。
ところが、その話を聞くと祖父は「まだいるのか・・・」と呟き、門限破りについてはお咎めなし。
不思議に思った父親は長男に話してみたそうです。
そうしたら長男は「お前もか!」と言い、自分も全く同じ経験をしたことを明かしました。
その次の朝祖父にそのことを聞いても何も明かさず、その時はうやむやにされてしまいました。
それから数年後。残りの兄弟全員が同じ経験をしたそうです。
とうとう酒の席で親戚が集まったとき祖父に聞いたところ、「その人はAさん(イニシャル)だ・・・」と教えてくれました。
Aさんとは、他県から仕事のために今の場所に越してきた祖父母の面倒を見てくれていた人だそうです。
そして祖父母夫婦に長男が生まれた頃、交通事故で亡くなりました。
車と自転車、そして電柱に押し潰されて、足はちぎれていたそうです。
そして父親兄弟がAさんを見たと言う交差点こそ、事故現場からAさんのお墓のある場所へ真っ直ぐ続く道だそうです。
ここまでならよくある話なのですが、私が一番怖かったこと・・・それは、30年以上経った今、私自身がAさんを見てしまったことです。
30年以上の間、そしてもしかしたらこれからもずっと、死んだことに気付かないのか、それとも理由があるのか、Aさんはその道を走り続けるのかと思うと、ゾッとします。