小さいころ祖父が病院で死んだ。
両親と駆けつけたときはもう霊安室だった。
両親はじめ親戚みんなばたばたする中、どんな拍子かオレだけ霊安室に残されることになった。
「線香は絶対切らさんようにね」と念を押されて、オレは素直に線香をじっと見続けていた。
どれぐらい経ったろうか・・・。
ふと祖父の方に目をやると、ベッドからなぜか手が出ていたんだ。
オレは子供心に「こりゃいけん。ベッドの中に戻してあげないと」と思って、祖父の手をベッドの布団の中に戻そうと近づいていった。
そしてまさに祖父の手に触ろうとした瞬間、ピクッッと祖父の手が動いて布団の中に戻った。
オレはビックリして声も出なかった。
それからしばらくして両親やら親戚やらが戻ってきた。
「偉かったねー。一人で留守番できたねー」とかおばさんやらが言ってたが、その中の一人が、「お、線香の灰が折れんで蚊取り線香のように丸まっちょる。これって仏さんが喜んだときになるっちゅうんよ。私しゃ初めてみたわぁ。坊がよう仏さん守っとったからじゃろう」と言ってオレの頭をなでてくれた。
オレはその時、たぶんニカッと笑ったと思う。