夜間採集での恐怖体験

カテゴリー「心霊・幽霊」

夜間採集での恐怖体験。

もう16年前になる怖い話があります。
当時、尊敬して止まなかった昆虫採集の達人のHKさんと共に、能勢地方で様々な昆虫採集をしていました。

HKさんは、関西の昆虫の裏世界の重鎮で、当時、飼育法が確立していなかったオオクワガタの生息地を完璧に網羅し、能勢地方から遥かに離れた都市の近郊でさえもオオクワガタを発見する程の達人でした。
その他水生昆虫、小動物等、驚く様な希少種の生息地を把握している人でした。

そのHKさんと、猪名川町のとある集落でオオクワガタを探していた時のこと。
林道沿いの台場クヌギにライトを照らしていると、山の斜面からミシ・・・ミシ・・・と足音が聞こえてきたのです。

距離にして私から10メートル程先です。
誰かが居ると思いライトを照らしました。

先は深い森だったので、木立が邪魔をして良く見えません。
何か小動物が歩いていたのか、と再び台場を照らすと、またミシ・・・ミシシ・・・と、山の斜面を降りて来る訳でもなく、林道と平行して歩く様な足音。
改めて辺りをライトで照らしてある事に気づきました。
足音の主の車が無いのです・・・。

時刻は22時を軽く過ぎていました。

車が無い・・・。
あの足音は一体誰・・・。

流石に気持ち悪くなってきました。

近くに居たHKさんの所に向かい、その事を話しました。
HKさんは「何?足音?あほか(笑)そんな事ある訳ないやろ。空耳や空耳」と、私の話を一笑しました。
HKさんの話で私は安心して、その場所から少し林道を上がった所にある台場クヌギを見る事にしました。

その台場は、オオクワガタが『普通に』見つかる木でした。
ベストシーズンでは、オオクワガタがまるでコクワガタの様に木の表面を歩いているのです。
その木の近くは小川でした。

いつもの様にその木にライトを照らしていると、ほんの一瞬、小川のせせらぐ音が、大勢の人が話している声に聞こえました。

「え?!!」

我にかえると、小川のせせらぐ音です。

「あ、れ・・・空耳か・・・」

さっきの気持ち悪い足音でオカルトチックな心理状態になっているのかも、と再び台場を照らすと、
また「ワイワイガヤガヤ、ワハハハハ・・・」。
まるで、すぐ近くで夜桜花見の宴会でもやっているかの様な楽しげな人々の声。
声の方向にライトを照らしましたが、あるのは小川だけです。
今度こそ、本当に怖くなりました。

そしてHKさんの元へ行き、「今夜は、帰りたい」と告げました。

小川の近くで聞いた声は間違いはありませんでした。
ただし、それ程怖くは感じませんでした。
敵意は感じず、ただ楽しく宴会をしている、といった雰囲気でした。

帰りの車の中で、HKさんにその声の話をしました。
相変わらすHKさんは、「声なんかする訳ないやろう?空耳やって・・・」と言いました。
しかし、HKさんの顔が一瞬真面目になりました。
私はそれを見逃していませんでした。

改めて「Hさん、俺の聞いたのは、ほんまに空耳やったんやろか?Hさん、ほんまの事を言ってよ」と訊き直しました。

するとHKさんは、「しゃあない。ほんまの事言うわ。お前が聞いた音や声は、俺はしょっちゅう聞いてる。あの辺は特に良くあるんや。足音、話し声、山を歩いていると襟元や袖口を引っ張られる」

・・・絶句した。
やはり私が聞いた声や音は本当だったのだ。

HKさんが曰く、猪名川、川西、能勢、三草山が酷く、特に能勢町が最も良くあるとの事。

HKさんと共に昆虫採集をしなくなる直前、HKさんは驚く様な事を口にした。

「この前ビックリしたで。近くに買い物をしに車を運転していると、後部座席から『早よ急がな○×△■○・・・』という声が聞こえてきたんや」

その車はいつも昆虫採集に出かける時に乗る車だった。
HKさんは頭にきて、「いつまで俺に付け回すんや!!!白昼にお前を晒け出すぞ!!」と言おうとしたらしいのだが、酒に泥酔した時の様にロレツが全く回らく、言葉を発する事が出来なかったのだそうだ。

その後、HKさんとは親交が無く、今どうされているか知らない。

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