両腕を骨折して入院していた。
窓際で新鮮な空気は入ってくるものの、とにかくすることが無い。
日がな一日中ベッドに縛り付けられているおかげで、向かいの人とすっかり仲良くなってしまった。
毎日自分の趣味のことや、家族のこと。
そして怪我のことについて話し合った。
彼は最近大手術を終えたばかりのようで、片腕がなかった。
痛ましい光景ではあったが、彼は明るい性格だったため、病室は笑い声が絶えなかった。
そんな入院生活も、ついに今日で終わりだ。
退院の手続きを済ませて、病室に荷物を取りに戻った時には、もうすっかり日が落ちていた。
冬の日暮れは早い。
別れの挨拶と、前もって用意させておいた菓子折りを持って、向かいのベッドへと進む。
・・・眠っているようだ。
頭からを毛布をかぶっていて、寝息も立てていない。
声をかけるのはかえって悪いようだった。
仕方が無いので、簡単な置き手紙を書き上げて、そっと置いておいた。
こんなお別れで後ろ髪を引かれるようだったが、ここは堪えて早く元気になってくれるよう祈った。
病院をでてタクシーに乗り込むときに、病室のあたりを振り返った。
するとそこには、満面の笑みで両腕をふり、見送る友人の姿があった。
・・・なんだ、起きていたのか。
先に退院して、待ってるからな。
あふれてくる涙を抑えられなかった。
そのせいか、彼の顔がぼやけて見える。
私は彼に大きく手を振り返し、タクシーへ乗り込んだ。
一週間後、彼のお見舞いとお世話になった看護師への挨拶も兼ねて病院を訪れたが、そもそも同じ病室に”彼”などはいなかったらしい・・・。