奇妙な感覚

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

大学生のころ、一般教育科目を担当している非常勤講師の女性の先生で、少し足の悪い人がいた。
そして俺は一年生の時にその先生の授業をとっていて、彼女とは多少は話したことがあった。

ある日、大学までの通学電車の中で先生とばったり会った。
手すりに寄りかかり右足をかばうようになんとか立っている先生の姿を見ていられず、優先席に座っていた背広を着たおっさんに、「すいません。この人足悪いんで、席譲ってもらえないですか?」と声をかけた。
おっさんは特に返事もせず軽くうなずき、すぐに席を立ってくれた。

「ありがとう」と微笑みながら座る先生の姿に、「あれ?」と不意に、何かいびつな物を見たような奇妙な感覚を覚えた。

数年後、大学を卒業した後に風の便りで聞いた話だが、先生は何か大きな問題を起こし大学を退職したそうだ。
大学側としてもあまり公にできないような話で、首にすることはできず辞職という形をとらせたようだ。
一つわかっているのは、実は先生の足は少しも悪くなかったらしい。

なんであの先生がそんな演技をしていたのかはわからん。
そしてそのことが事件と関係あったのかどうかもしらん。
ただ、あの時「ありがとう」と答えた彼女の目は、なんだか黒目が異様に深くて、いや、深いというより、『深い』とか『浅い』とか、そういうものすら感じられないほど何もない真黒な闇のように見えて、ちょっとだけぞっとしたことを思い出していた。

月並みな表現になってしまうんだが、目が全く笑っていなかったんだよあの人。

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