10年くらい前、◯営住宅に旦那とまだ幼稚園だった娘との三人で住んでた時の話。
ご近所さんはみんないい人だったんですが、一人だけキチというかちょっと妙な人がいました。
ここでは仮にAさんとします。
Aさんは、いつもすごく綺麗な服で着飾っていました。
挨拶も普通にするし、言葉遣いとかも上品な人なんですが、常にその腕にはヨーロッパ系の人形が。
で、人形にいつも話しかけている。
Aさん:「人形ちゃん、泣かないで」
Aさん:「よしよし、人形ちゃんはいい子ね」
しかも、態度は普通なのによく見ると目つきがギラギラしてる。
言っちゃ悪いのですが、なんか気持ち悪いというか、いたたまれないというか・・・。
「目」と「人形」以外は普通な人なだけよけいに。
詳しいことはご近所さんも誰もわからなかったようなのですが、自然と「昔子供を亡くしたから代わりに人形を抱いているのではないか」ということになっていました。
それで、ある日の夜。
ちょっと近所に用事があった帰り、駐車場近くのゴミ捨て場でAさんに遭遇。
しかし、その時のAさんはちょっといつもと違いまして・・・「ごめんね、人形ちゃん」と、なんか、そんなことをぼそぼそとずっとつぶやいている。
そしてゴミ捨て場には件の人形。
え?と思っているとAさん、今度は「ごめんね、待てないママで」と言いながら、何もない空を軽く握る動作。
まるで隣に誰かがいるように・・・。
その時点で鳥肌が立っていたのですが、ここでAさん、私に気付いたようで「あら私さん、こんばんわ」なんて言う。
それも、表情がまるで憑き物が落ちたというか、ギラギラしてた目が穏やかになっていたというか。
何というか、今までのAさんじゃないみたいでした。
と、Aさんが唐突にこんなことを言いだした。
Aさん:「あ・・・私さんのところも『あっち』から帰ってきたんですね」
私:「はい?」
Aさん:「うちの子も、ほら、手を離しちゃダメですよ?」
私:「はあ・・・・・・」
Aさん:「うふふ、また『あっち』に行っちゃいますから、今度はちゃんとつかんでなきゃ」
私:「あの、一体何の話を・・・・・・」
Aさん:「何って、ほら、ちゃんと息子さんつかんでなきゃダメですってば」
私、鳥肌・・・。
ずっとAさんは私の足元を見て話していた。
『あっち』という言葉を強調していた。時おり自分のとなりの誰かに笑いかけていた。
それ以上に、「息子さん」という言葉を発したことに鳥肌が立った。
実は私、娘を産む以前に一度、死産を経験。
その子の性別が男の子だったのです。
当然、そんなことAさんが知るよしもない。
怖くてきびすを返して、一目散に自宅へ逃亡。
その月のうちに、また別の◯営住宅街へ引っ越すことを夫に必死で認めさせました。
幸いというべきかそう離れてもいなかったので、娘は転校を経験せずにすみました。
今にして思えば自分の子のことですし、何をそんなに怖がったのかという感じですが、当時はしばらく悪寒を覚えていた出来事です。