多々話題にのぼるようになってきたハロウィーン。
その起源となる祭りでのお話をば。
たまには外国のものなどもよろしいかと存じます。
オカ板住人の皆様方には風習奇習、宗教的な祭りに詳しい方もおられるでしょうが、北欧一帯を指す、いわゆるケルトの『サウィン祭』なるものをご存知でしょうか?
北欧にて11月始め、収穫祭であり厳しい冬と新しい年の始まりを謳い、死者の国や妖精郷といった異界への扉が開かれる日。
などと小難しいことを書きましたが、ようはハロウィーンの源流となる収穫祭のことでございます。
さて、このサウィン祭。
10/30の夜から11/1の朝までというのが一般的ですが、11月に入り1日に一番近い満月の日に行うという説もございます。
日本のお盆と同じように先祖の霊が帰ってくると信じられ、お盆と違うのは前述の通り異界への扉が開くため、先祖の霊だけではなく悪霊や精霊、妖精も彷徨いだすというところ。
そんな異郷と現世の境界が曖昧になる日、ある村でのお話。
その村には変わり者の男がいたそうで。
日がな一日、本を読んだり怪しげな道具や薬を作ってすごし、時折思い出したように畑の世話をしていたそうでございます。
ドルイドでもなく、神に仕える司祭でもないこの男、変わり者ではあるものの狭量ではなく、村人に知識を分け便利な道具を提供することで糊口をしのいでおりました。
そしてあるサウィン祭の夜。
1年の終わりと始まりを隔てる最も大事な夜にやはり男は祭りに参加することなく、家にこもっておりました。
取り寄せた書物を一心不乱で読みふけり、腹の虫が鳴ったのに気づいたのはもうしばらくすれば夜が明ける頃合い。
祭りの日であることを思い出した男は、残り物の相伴に与ろうとちょっと散歩する程度の気分で暖炉に火を入れたまま、冷え込みが厳しくなった夜道を歩き広場へと向かいました。
家々は灯りが消され、寒さの厳しくなった村の夜は足元もよく見えず。
遠く広場からの騒ぎの声と一層暖かそうに見える魔除けの焚き火を目指して変わり者は進みます。
首尾よく祭りの豪勢な食事を腹に詰め、もう終わりだからと村人に引き止められて、夜明けまでを共にします。
魔除けの焚き火の消火を見届けた男はそれ以上、何かを言いつけられてはたまらないとばかりに、隠れて家路についたのでございました。
暖炉に暖められた部屋に入ると一息つき、再び読書に励もうといつもの椅子に腰を落ち着け、書を開きます。
ところがどうにも集中できず、いつもなら絶対に気にならないはずの細かいことにすぐ気が散ってしまう。
根を詰め、寝ていないところに腹も満たしたので仕方ないかと、男は読書を諦め一眠りするかと立ち上がりました。
ふと視線を出入口のドアへ向けると、いつの間に入ってきたのか少女が一人、顔を俯けて立っておりました。
男は驚きのあまり腰を抜かしてへたり込んでしまいますが、よく見ればその少女、服も顔も土埃で汚れております。
祭りから帰る途中に転んでしまい、近くにあった家に来たと考えた男は、己の醜態に照れつつ少女に詫びを入れ、手ぬぐいなどの用意をいたしました。
少女は扉の前から動かないまま・・・。
水に浸した手ぬぐいを渡そうと男は彼女に近づきます。
これを使うといい、そう言うと少女はようやく顔を上げたのでございます。
その顔を見た男は再び驚きに硬直いたしました。
燃えるような赤い眼。
少女はくしゃっと顔を歪めると、想像を絶する大声で泣き喚いたのでございました。
突然、落雷のごとく響いてきた凄まじい泣き声に、祭りを無事に終えてくつろいでいた村人たちは飛び上がって、急ぎ広場に集まりました。
「泣き女だ。泣き女が出たぞ」
皆、不安そうな顔で辺りを見回し、隣人と小さな声で会話をしておりました。
やがてこの場にあの変わり者だけがいないことに気がつくと、村の力自慢や猟師である男たち数名が変わり者の家へと様子を見に行ったのでございます。
扉を開けると、そこには目を見開いて死んでいる変わり者の男がおりました・・・・・・。
サウィン祭にはひとつ、行うべきしきたりがございます。
それは、祭りの開始と同時に家の照明や暖炉の火を落として眠りにつかせ、静けさを呼び込みます。
そして祭りの終わりに魔除けの焚き火から燃えさしを貰い、それを火種として再び蝋燭や暖炉に火を与えるのでございます。
その灯りと暖気が家を満たすことで、外の悪霊や妖精から、ひいてはこれから長く続く厳しい冬から住人を護る結界を作るものでした。
それを怠った変わり者の男は、泣き女に死の国へと誘われることとなったのでございます。