後輩の話。
大学生の時分、彼は警備会社でバイトをしていた。
夜警を任されていた中に『出る』と噂があるビルがあったのだという。
見掛けこそ強面する大男の彼だが、根はかなりの臆病者で、そこの仕事が廻ってくる度にビクビクしながら仕事をしていたそうだ。
そんなある夜、例によって泣きそうになりながら定時の見回りをしていると、懐中電灯の照らす光の中に女が一人姿を現した。
どこか野暮ったい古い型の白いワンピース。
身体を患ってでもいるのか顔色は青白い。
後輩:「えっどこから出てきたの!?」
突然のことに硬直する彼を目にして、女も驚いた様子だ。
しばらく見合ってしまったが、徐々に女は恐怖の表情を浮かべ始めた。
後輩:「いや僕はバイトでして、そのつまり・・・」
慌てて自分は怪しい者ではないとの説明を始めたが、噛みまくってどもりまくる。
端から見たら怪しいことこの上ない。
女:「ヒィッ!」
いきなり女は短い悲鳴を上げ――そのままスゥッと透き通るように消えてしまった。
後輩:「・・・怖いのは怖かったけど、でもそれより切なかったですよ。僕、そんなに怖い顔してますかねぇ?」
後輩はそう言いながら、ゆっくり頬を撫でていた。
・・・まぁ確かに、彼は熊みたいな顔をしていたが。
その後も何度かそこで仕事をしたが、あの女性は二度と姿を現さなかったそうだ。