うちのオフィスの男子トイレの窓には、『夜間、この窓を開けないで下さい』という注意書きが貼ってある。
実は去年の8月末から9月初めにかけて、夜になると生暖かい風がふいて、直径20センチ程の火の玉がオフィスの前庭に浮遊している・・・という怪奇現象が見られたのだ。
悪い事をするわけでもないので、はじめは残業していた社員が面白がって見ていた。
それは特にトイレの窓からよく見えた。
所長がその日、小便しながら窓から「今日もいるなあ」と見ていたら、突然その火の玉が所長の顔の前の窓に突進してきて網戸にあたった。
その瞬間に火の玉は消えたらしいが、所長はびっくりしたものの案外冷静で、その網戸を調べたら、べっとりとした粘液状のものが網戸の糸にこびりついていた。
次の朝、自分も所長に言われて見てみたが、確かに透明で赤っぽいねばねばした物が網戸についていた。
それは夏の日差しですぐに乾いてしまったが、少量をこそげとってヒマな所長が成分を調べたところ、pHが9、水酸基を持つ高分子の有機物であり、赤リンを含むがそれ自体は難燃性の物質だった。
どうも燃焼が吸熱反応になるため、赤リンがとろとろした燃え方になるようである。
「史上初、人魂の成分分析」と言いたいが、あんなのが人魂なのだろうか。
それ以来、火の玉は現れなくなったが、あのトイレの窓は夜間は締め切りになっている。