自分は時々金縛りに遭う。
しかし夜中でなく休日の昼寝中が多いので、怖くなくイラつくという感じだった。
しかしこの前経験した金縛りは、真昼間にも関わらず尋常じゃない恐ろしさだった。
昼間、自室のベッドでうつらうつらしていると金縛りになった。
まーたかよ、うぜーなという気分で、さっさと解けねーかなと普通に寝てたんだが、窓の外でシャン、シャンと異様な感じの鈴の音が聞こえてきた。
猫かと思ったけど、あんな規則的には鳴らさないよな・・・。
家の外からゆっくりと、しかし確実に規則的に窓のところに近寄ってくる気配。
神経の図太さには自信があった俺も流石にじわじわと怖くなってきて、これはヤバイ!と、とにかく布団から抜け出して全速力で遠くへ逃げたくてたまらないのに、体は全く言うことを聞かない。
音が止まった。
窓のすぐそばだ。
見たくないのに、首が意思に反して窓のほうを向く。
誰かに頭を抱えられて無理矢理振り向かせられてるような、非常に嫌な感じだ。
目蓋を閉じているはずなのに目が見える。
窓の外の風景を見た途端俺は戦慄した。
等身大くらいの大きさの不気味は和人形が、窓を覆いつくすほど大量に張り付いてるんだよ。
もう外が昼か夜かも分からないくらいに。
人形は無表情で一斉に小刻みに痙攣して、金魚のように口をパクパクさせてる。
低いじいさんの声で、祝詞(神式の葬式とかで神主が唱えるお経のようなもの)を唱え始めた。
耳から入ってくる音というより、ぐわんぐわん脳全体を反響して聞こえる声で、耳を塞いでも目を閉じてもこれは絶対逃げられない!もうだめだ呪い殺される!ってくらい追い詰められて死を覚悟してたんだが、窓辺にトトロのぬいぐるみが飾ってあるのがふと目に入ったんだよね。
歯をむき出しにして叫んでる表情の。
その存在に気づいた途端、トトロが映画のアレみたいに「グアアアー!」って叫んで、掃除機のCMのように人形たちをものすごい勢いで全部吸い込んでしまった。
そして部屋の空気は平常になり、やがて金縛りも解けた。
今思い出せば、あの時のトトロの形相も子供が見たら絶対トラウマになるくらい恐ろしく歪んでいたのに、金縛りの最中は本能的にトトロは自分の味方だと感じていた。
普通ならそのトトロは人形供養に出そうと思うだろうし、親も絶対そうさせると思うので親に話してない。
俺が幼稚園くらいのとき死んだ祖父が買ってくれたものだから手放したくない。
流石に場所は窓辺から枕元に移動したが・・・。
後で冷静になって思い出すと、あの変な人形どもが唱えてた祝詞は、祖父の葬式のときに神主さんが唱えてたのにそっくりだった。
声の感じは神主さんのプロっぽい声とは似ても似つかぬ、怨念がこもったデスメタルのような声だったが。
今までの記憶をつぎはぎした夢だ、と言われればそれまでなんだが、夢にしても怖すぎる体験でした。