あれは上京して約1年経った夏のできごと。
その日も憂鬱な気分のまま帰路に着いていました。
朝晩通るいつもの道なのですが、その日はやたらカラスが電線に停まっていました。
あそこまでの光景を見たことが無かった自分は、一瞬興奮しましたが憂鬱な気分には勝てずまたトボトボ歩き出しました。
暫く歩いていると坂の上の方から、真っ白な身なりをしたお嬢様風の方が歩いてくるではありませんか。
あれには一瞬で心奪われました
思わず立ち止まって見入ってしまうほど。
今でも鮮明に覚えています。
ツバ広の白い帽子。
足首まで隠れるノースリーブの白いワンピ。
カツカツ音がする白いヒール。
おまけに白肌で長い黒髪でした。
覆い尽くす程のカラスがより白を際立たせており、とても美しく感じたのです。
格が違い過ぎるので、自分なんかが・・・とは思ったのですが、声を聞いてみたくて仕方なく。
しかし、一度もナンパなどしたこともなく、すごく葛藤しました。(それくらいの衝撃だった)
結局、チキンな自分は何も出来ず棒立ちです。
しかし、その方は、すれ違い様にニコッと笑みを浮かべ会釈してくれました。
それだけで最高に幸せな気分になれました。
とここからが不可解です。
その方が下っていき角を曲がり視界から消えたのですが、その角から同期の奴が出てきました。
共に帰ろうと思い同期を待ち、先程の話を聞かせました。
しかし同期が言った「そんな人とすれ違ってないよ?確かにカラスはきしょいぐらいに多いけど。」て・・・。
そんなはずない。
角を曲がっても暫く狭い一本道なのに。
でも、本当に知らない感じでした。
夢だったのかな?
あれが夢・・・今でも不思議です
実はその後、転職するまでの数ヶ月間で4度ほど会っています。
どれも同じ道でした。
そして毎回ニコッと会釈してくれるのですが、目をはっきり見たのはその中の一度だけです。
丸く大きな瞳でやはり美しかった。
それでもその方を見かけるのは自分だけのようで、誰も話を信じてくれませんでした。
怖いとか不気味さは一切感じない。
むしろ優しさ柔らかさ知的という雰囲気です。