知り合いの話。
彼の祖母が死んだ折、祖母が飼っていた犬を引き取ることになった。
父の車で犬を引き取りに行ったのだが、犬はとても大人しくて騒ぎはしなかった。
運転中も静かにお座りをしたまま、窓の外をじっと見ているだけだ。
「ちゃんと番が出来るのかな」その様子を見て、少し心配になったという。
しかし犬は家に着いて庭に入った途端、激しく牙を向いて唸り始めた。
先ほどまでの物静かな様子とは真反対だった。
豹変した犬の態度に困惑したが、よく見ると犬は縁の下に向かって威嚇するように唸っている。
「床下に蛇でも入ったか?」と思ったが、犬は一向に牙を納める様子がない。
気持ち悪くなった父子は仕方なく、床下を調べてみることにした。
居間の畳を上げてみると、湿った土の匂いが上がってくる。
・・・加えて、微かに生臭い。
腹這いになったまま、床下を臭いの強くなる方へ向かう。
すると家の中央辺りの黒土に、大きな窪みが掘られているのが見つかった。
大人が一人、楽に横になれるほどの大きさと深さ。
窪みの周囲には猫か兎か、小さい動物の骨らしき物が散らばっていた。
臭いの元はこれだったのか。
その時、外で頑張っている犬の声が変化した。
唸り声から激しい吠え声へ。
慌てて庭に駆け出ると、犬はもう縁の下に向かっておらず、裏手の藪に向かって必死に吠えている。
目を凝らしてみたが、藪の中、そしてそれに続く林の中には、何ら怪しい姿は認められない。
少しすると犬は吠え止み、父や彼の手をペロリと舐めた。
大きい伸びを一つしてから、自分の新しい縄張りになった庭をうろつき始めた。
どうやら、床下に潜んでいた何かが、犬によって裏山へと追いやられたらしい。
「大人しそうに見えて、実はやり手の番犬だったんだ」と彼は言う。
犬は現在高齢になっているが、それでもしっかり番の役を努めているそうだ。
彼の家の下に何が巣食っていたかは、今でもわからないままである。