友人の話。
下生えを刈るため、山に入っていた時のこと。
鎌を持つ手を休めて顔を上げると、すぐ先の梢に何か下がっているのが見えた。
丁度彼の目線の位置で、握りこぶしほどの茶色い袋が吊り下げられている。
どこで結ばれているのか、紐の上端は木々の高みに溶けていて見えない。
ついさっきまで、こんな物はなかった筈だけど・・・。
興味を引かれた彼が手を伸ばすと、背後の大叔父が怒鳴り上げた。
大叔父:「触るんじゃない!」
慌てて手を引く。
無視しろ!と怖い顔で言われたので、とりあえず従っておくことにした。
昼に弁当を広げた時に初めて、あの袋について説明されたという。
大叔父:「ここらの山には、昔から茶袋っていう物の怪が棲んでいるんだ。口を開けて中を見ると、悪い気に当てられて大病を患ってしまう。他に悪さはしないんだが、長生き出来なくなるのは嫌だろ」
妖怪と呼ばれる代物なんて、実際に見たのは初めてだったなぁ。
彼はどこか嬉しそうにこの話をしてくれた。