昨日の夕暮れ会社の後輩を車で彼の家まで送って行った。
彼の家は農家で敷地の入口から住んでいる家までかなりの距離がある。
話に聞いてはいたが、実際に来てみるとちょっとした市民公園のようだった。
「ここでいいです」と木に囲まれ何もないが、車をUターンさせやすい場所だった。
彼は車を降り、別れを告げ歩き出した。
程なくどこから現れたのか無数の猫が集まってきた。
10匹以上はいたんじゃないだろうか?
犬や猫、ニワトリなど飼っているのは聞いていたが、あまりの数に少々驚いて見入ってしまった。
そのせいでもないが自分はすぐには車を出さず、何気に車の窓を開け、離れていく彼の背中と猫の群れを見ながらタバコに火をつけようとした。
その時聴こえて来た彼の声。
後輩:「そんなにいっぺんに言われてもわかんないよw一人づつね」
飼っているペットを擬人化してその鳴き声に意味を持たせるのはよくあることのように思う。
彼の発言が「ただいま」であったなら誰一人として違和感など感じないだろう。
後輩:「一人づつね」
自分にはこの部分が強烈に印象に残っていた・・・。
そして小さくくぐもった彼の声。
彼は日頃からよく歌謡曲を歌っている。
中性的なその声は作業中の騒がしい工場の中でも何を歌っているかわかる程よく通る。
実は、彼が動物と話せる・・・というのは社内では有名な話だ。
入社間もない頃、社長の家で飼われていたウサギの体調不良を見抜き、エサを改善するよう要求した話は今でも笑い話として皆の口に登る。
小さい時から自然に囲まれて育ち、家庭の事情で進学をあきらめなければ獣医学部に進んでいたと言うから、特に不思議はないと昨日までは思っていた。
しかし昨日の一件から自分の彼に対する疑念が晴れない。
考えてみれば動物の事以外でも彼には不思議な事が多過ぎる気がするのだ。