友人の話。
大学生の頃、心霊スポットとして有名なダムに、夜一人で出かけたという。
確とした理由はない。
強いて言えば、若気の至りだったらしい。
車を停めて、ダムの周りをぐるり一周する側道を歩き出した。
月明かりを頼りに、明かりも持たずに歩を進める。
暗い道をのってりのってり歩いていると、突然背後から大きな水音がした。
まるで大きな石を投げ込んだかのような・・・。
ギョッとして立ち止まるが、闇の中には何も見えない。
と、今度は彼の前方から水音がする。
あまり間を置かずに、次はまた後方から水の音。
『怖いものは考えるな。怖くないものを想像するんだ。海豚、そう海豚だ。海豚が俺の横で、前後にくり返しジャンプしているんだ。』
そう自分に言い聞かせ、怖くない怖くないと呟きながら歩き切った。
ザッパーンという水音は、途切れずにテンポ良く続いている。
駐車場への道に出て小走りになった彼の後ろから、鳴き声が浴びせられた。
何とも表現の仕様がない奇怪な声だったという。
「海豚じゃなかったよ、やっぱり」
怖れたような、しかしどこかしら残念そうな顔で彼は言った。