俺、最近まで、都内の長屋みたいなとこに住んでたんだけど、壁が薄いんだよね・・・強烈に。
だから隣の声が全部聞こえる。
外から見て、向かって左側の部屋がおじいさんの一人暮らしで、よくテレビ見てるんだけど、その番組が何かもわかるの。
で、右側の部屋。
ずっと空き部屋だと思ってたんだけど、いつからか子供が遊びに来てたんだ、その部屋に。
でも、そこで遊んでるわけじゃないみたいだった。
説明しにくい話なんだけど、まぁやってみる。
ある日、俺が部屋から出ると子供が目の前を通り過ぎたんだ。
で、その右側の部屋のドアを開けて中に入った。
『あれ、あそこ空き部屋だよな?』って思ったけど、『イタズラかもな、でも慣れた感じだったな、カギ開いてたのかよ』みたいに考えた。
しばらくたったある日、またその子が来た。
その時は自分の部屋にいたんだけど、子供の足音と右隣のドアが開く音がした。
『あの子、また来たんだ』って思った。
「おじいちゃん!」
ドアを閉めたあとで、その子が大声を出した。
「おお、来たか」
左隣の部屋から、おじいさんが返事をした。
『何だよ、壁が薄いからって、俺の部屋はさんで会話してんじゃねーよ』
右側で玄関から奥に向かってタタタタって走る足音。
「なんだ、お前もう長袖か?」
「うん、今日は外、寒いんだよ」
『あれ?』
いつの間にか左側から子供の声が聞こえる。
左隣の部屋で、おじいさんと子供が喋ってる。
一緒にテレビ見たりしてる。
昼になって、二人は一緒にご飯を食べに出かけた。
そんなことが何回もあった。
きまって子供は右隣の部屋に入る。
だけど、いつの間にか左隣の部屋でおじいさんと遊んでるんだ。
俺の部屋を素通りしてるみたいに・・・。
子供が遊びに来るまで、右隣の部屋からは何の物音もしない。
気配もない。
どーなってんだこの長屋・・・って思ってたけど、ほかに妙なこともなかったんで、それからもしばらく住んでた。
今は全然別のところに住んでるけど、時々思い出すんだ。
あの子、今もあの部屋に遊びに来てるのかなぁ。