自転車で走っていた時、ヒソヒソ声が耳に入ってきた。
振り返ったら大きめのゴミ収集ボックスがあったから、物陰に誰かいたのかなと思ってやり過ごした。
でも、5秒くらいしたら、またヒソヒソ声が聞こえてきた。
左耳の後ろ至近距離。
ありえない・・・。
走ってるのに・・・。
ドラゴンボールの歌で景気つけて立ちこぎしたら、チェーンが外れたのか転倒した。
路上で身悶えている間も耳から声が離れない。
同じ位置で同じ調子。
必死に唱えた。
錯乱してた。
だんだんヒソヒソ声に輪郭ができてきている。
意識を内向きにしようと無理やり何でもいいから考えた。
逆に声がクリアになっていく。
わかった。
子どもの声だ。
もう近いなんてもんじゃない。
頭を少しでも動かしたら唇が耳に触れる。
絶対そうなる。
不意におじさんの声が割り込んできた。
目の前におじさんがしゃがみこんでいた。
上半身を起こして、おじさんと向かい合ったら隣にあの収集ボックスがあった。
少なくとも50mは移動していたはずなのに。
「自転車で転んで・・・」と言いながら、周囲をみると自転車がない。
怪訝そうなおじさんに礼を言って起き上がり、とりあえず歩いた。
声はもう聞こえなかった。
自転車はずっと先に転がってた。