久しぶりに祖母の元へ帰省した時、子どもの頃、帰省のたびに遊んでいた近所の神社へ甥っ子を連れて出かけた。
着いてみると、記憶よりもこじんまりした境内だったが、遊具がそっくり当時のままで、おかしかったけど嬉しかった。
砂場には小学生が5人位いる。
夏休みだなぁ・・・と思い、一層昔を懐かしく感じた。
甥っ子は早速滑り台に飛びついて何度もせわしなく滑っている。
その様子を見守っている内に、なんだか腑に落ちない気分になった。
「次はあれ!」と手を引かれてブランコに向かい、甥っ子を軽く押している間もその違和感が消えない。
なんだろうな?と思い周囲を見渡してみる。
ブランコに乗って笑っている甥っ子。
昔のままの滑り台は、滑面だけが夏の日差しで眩いている。
砂場には小学生たち。
やしろ。
そういえば昔床下にもぐったりしたなぁ・・・。
一通り見渡してまた甥っ子に目を落としたところで不意に気付いた。
声だ。
着いた時から小学生たちの声を全く聞いていない。
それで砂場の小学生に目を向けてみると、背を向け合った円陣でしゃがみこんでいる。
俺が気に留めなかっただけで、最初からあの状態だったのかもしれない。
じっとしゃがんで、手だけ動かしている。
手元には小さな砂の山。
てっぺんに何かが挿してある。
ああ、棒倒しか・・・。
円陣で個別にというのは、この辺のローカルルールなのだろう。
タイミングよく甥っ子が砂場へ向かったので、一緒に砂場に近づきながら声をかけた。
「あ、こんにちは」
手前の男の子が返事をして、他の子もそれに倣った。
「棒倒しか、別々にやるんだね」と俺もそばにしゃがんだ。
間近に砂山を見ると、てっぺんの棒がやけに太い。
そして白い。
太めのチョークかなと思ったけど歪んでいる。
男の子に尋ねると「あ、骨です」と簡潔に答えてくれた。
骨って・・・。
骨付きチキンの骨とかではない。
明らかに高温で焼ききった骨の白さだ。
「何の骨?」とは聞けなかった。
大人の責任としてちゃんと聞くべきだったが怖かった。
代わりに男の子が社を指さして甥っ子に言った。
男の子:「あそこの下にコレあるから一個ほしい?」
情けない話だが、別れの挨拶もそこそこ甥っ子を抱いて遁走してしまった。
帰宅したら玄関に見知らぬ靴があった。
俺、ひとり暮らしだし、合鍵はない。
人を部屋に呼んだことすらないんだ。
やべ、空き巣か?
そう思って心臓バクバクした。
俺のサンダルとダンロップが脱ぎ散らかしてある中で、その靴だけ几帳面に揃えて置かれている。
女物のビジネスシューズ。
シューズキーパーが入っているのに気づいて血の気が失せた。
全身の筋肉がプルプルしてしまったので、ぎこちなくゆっくり一歩下がり、静かにドアを閉めた。
息を殺して慎重に施錠した。
鼻からフガフガ勢いよく息が漏れるから、全然殺せてなかったと思うけど。
その後、通報で駆けつけてくれたお巡りさんが、俺の代わりに部屋に入ってくれた。
玄関には、あの靴がそのままあった。
なくなっていたら、それはそれで余計に怖い。
それ以外、部屋に異常はなかった。
室内を見分している間、結構入念に人間関係(特に女性)のトラブルについて聞き取りを受けた。
そんなトラブルの自覚はないし、まして女性関係ならなおさらだ。
警官から、被害相談として受理するから、また同様のことがあったら連絡するようにと名刺をもらった。
ちなみに、俺の部屋は事故物件なんだけど、亡くなったのは高齢の男性で、病死だったそうだ。
おじいちゃんには女装癖があった、というオチなら気が楽になるんだけど。
あれから同じことは起きていない。
警察からも情報はない。