ある日曜日、昼の三時ごろだったか、秋の暮れだというのに妙に暖かい日で、ベッドでうとうとしていた。
いつもの見なれた自分の部屋。
自分のベッド。
日の光が差し込む窓。
しかし、何か違和感があった。
じわじわとした違和感。
私は少し前に洒落怖のまとめサイトを見ていたことが原因で変な意識をしすぎてるんだろうと思って、眠ろうとした。
泥のような眠気で、気を抜くとすぐにでも眠ってしまいそうだったのに、私の意思とは逆になぜか体が嫌がって目を閉じさせてくれない。
何分か体は頑張って眠りに抵抗していたが、そのうち耐え切れなくなって意識が途切れた。
夢を見た。
怪談をただ語っていくだけの夢だった。
視覚効果はほぼ伴ってない。
幽霊がどうとかではなく、意味不明な終わり方をする怪談ばかりだった。
やがて夢が不明慮になってきて、もうすぐ目が覚めるのだという予感がした。
その時語られていた怪談も意味不明なもので、よく覚えていない。
うっすらとまぶたの間から光が差し込んでくる。
瞬間、怒声に近い男の声が怪談をこう結んだ。
『おい!カーブを曲がるな!』
覚醒と同時に、私の体を異常な痺れが駈け抜けた。
足の先、指の先、毛根の一本一本にまで、今まで体験したことのない気味の悪い感覚。
前に扇風機に指を突っ込んで、怪我をしたことがあるのだが、あの時指に残った痺れに似ていたような気がした。
あまりの衝撃に、私は怖がるよりも先に愉快な気持ちになった。
ひとしきり余韻を楽しんだあと、夢から覚める前に聞いた言葉を思い出し、さらに部屋中の違和感が消えていないことに気付き、漠然と恐怖を覚えた。
恐怖をごまかすために枕元の携帯を手に取った。
ディスプレイを開く。
これだったのか、と思った。
携帯の壁紙は、カート・コバーンで、最近洋楽のサイトでDLしたものだった。
画面の中央に正面を向いたカート、その左上にギターをもったカートが正面のカートの頭に寄りかかるようにして配置されている。
正面のカートの顔は右半分がケロイドのように溶け出している。
少し不気味だったが、綺麗で心惹かれる画像だった。
しばらく眺めたあと、私はすぐに壁紙を別のものと取り替えた。
それからまたうとうとして、いつの間にか眠ってしまった。
夕食の時間、姉に起こされたときには、すっかり部屋の違和感は消えていた。
思い出せば、洒落怖まとめサイトで”道連れにする”とか”死神”とかそういう系統の怪談を読んでいたときに、(カート・コバーンにだったら連れて行かれてもいいなぁ)と、ぼけーっとしながら考えていた。
日本人の一般市民のために化けて出られるような暇な人ではないと思うが、もしそうだったら(不謹慎だが)やっぱり少し嬉しい。