祖母はずいぶん前にもう亡くなったが、広大な畑と山を持っていた。
小学生の時は夏休みと正月、年2回家族で会いに行っていて、そこで、その畑と裏の森で遊ぶのが毎回お決まりだった。
4年生か5年生の冬だったと思う。
いつものように畑で遊ぶのにも飽きた俺は、畑の裏にある山を探検する事にした。
夏の時ほど藪はひどくなく(夏の森は本当に藪だらけ)、それなりに歩きやすかった。
木には緑色の実がいくつかなっていたが、もぎ取ったりするのは流石に怒られるだろうと思い、止めておいた。
しばらく歩いた時、グチャという変な音が真後ろから聞こえた。
反射的に振り向くと、奇妙な子供?がいた。
・・・おかしい。
辺りは本当に静かで、遠くの空で鳴く鳥の声さえ聞こえるような場所。
だから、今の今まで、絶対に人なんか居ないはずだった。
そいつは異常なほど頭が大きく、坊主で、目が頭の上へと引っ張られるような形で大きく伸びていた。
本当に絵に描いたみたいに鼻から上が「目」だった。
俺は微動だにできず、硬直してしまった。
そいつは片方の腕(右だったと思う)をグネグネと変な風に動かしながら、もう片方の腕を伸ばし、例の緑色の実をもぎ取っては、握りつぶして、地面に落とす。
これを延々と繰り返していた。
グチャ、グチャ。
さっきのこの音。
まるで見せ付けるように、でも、表情は極めて無表情のままだった。
それで、どれくらい経ったのか(と言っても5分ぐらいだったと思う)、何とかしないといけないと思って、何を考えたのか俺は、「あ、あの」と震えながらもそいつに声を掛けた。
と、同時ぐらいに、今まで無表情だったそいつの口が歪んで、エ゛ウ゛ーーーーーーーーみたいな、聞いたことの無いような濁った声で笑い出した。
それが限界だった。
俺は耳を塞ぎながら、そいつの脇をすり抜けて走り出した。
背を向けて走り出してからすぐに、腰の辺りにゴツンと何かが当たる感触がした。
直感的に、あの実を投げ付けられたんだと感じた。
でも、足は止めなかった。
振り返るとあいつが追って来ていそうな気がして、怖くて、何度も躓きながら本気で走った。
家に辿り着いて、祖母に今の出来事を半泣きで話した。
両親は何事かと心配そうにしていた。
祖母はしばらく何か考えていたが、何も言わず、大丈夫大丈夫、と抱きしめてくれた。
あれから、あの山には二度と入っていない。