五年前くらいの話なんだけどさ。
その日渋谷のＡＸにライヴ行く予定で、家から私鉄で池袋に行こうとしてたのね。
なんだか朝起きた時から、映画のマトリックスのさ、ネオが銃弾避けるシーンあるよね？
あの仰向けに倒れながら弾が体の上飛んでくシーン。
アレが頭から離れなかったんだよね。
別にライヴとは全然関係ないんだけどさ。
繰り返し繰り返しあのシーンが頭の中で再生される感じ。
なんだか駅まで歩きながら、「マトリックス、マトリックス～♪」とか鼻歌歌ってた。
バカみたいだけど、その時はなんだかハイっぽい感じだった。
ライヴのせいだと思ってたんだけどさ。
で成◯駅について、池袋に行く電車をホームで待ってたのね。
相変わらず「マトリックスマトリックス～♪」とか鼻歌歌いながら。
隣で電車待ちで並んでた女子高生が引いたみたいに後ろに下がったの見てさすがに恥ずかしくなって、心の中で歌うようにしたんだけどさ。
それでアナウンスで「特急が通りまーす」って言って、向こうから電車が来たんだけど、その時ホームに課長だか部長みたいな感じのオッサンがフラフラ歩いてたの気づいたんだ。
「昼間から酔っ払ってんの？」って思って知らんぷりした。
頭の中で「マトリックス～♪」って歌いながら。
よく考えたら自分のほうがヤバい気もしたんだけどね。
「電車が通過しまーす」ってアナウンスが聞こえて、この次の電車だな～って考えてたら、いきなり警笛っての？アレがメッチャ大きな音出した。
「ヴァーンッ！！」って聞こえた。
あんな大きな音それまでも今までも聞いた事ない。
で、反射的に電車の振り返ったら「バッシャーン！！」と音と同時に、何か黒いで細長い物が、自分のほうに飛んで来てた。
スローモーションに見えた。
その時、なんでか知らないんだけど、「あ、マトリックスだ」って思った。
妙に冷静な自分がなんか変だな、と思ったけど・・・。
人間ってさ、一番早く身を伏せる時ってどうするか考えたことある？
しゃがむとさ、太ももとふくらはぎが邪魔でうまく伏せられないんだよね。
で、「マトリックス！」って背中から地面に倒れ込んだ。
正確に言うと、足を女の子座りみたいな感じで開きながら、同時に頭と背中を地面に落とす感じ。
実際にやってみたら全然マトリックスみたいに格好よくない。
とかなんとか呑気に倒れようとしたんだけど、もうちょっとで背中が地面につくかな～、とかって瞬間に、自分の目の前をさっきの黒い回転してる物体が「ぶぉんっ！」って通り過ぎた。
つまり、倒れこんだ自分のすぐ上を凄いスピードで飛んでったんだ。
何かが通ったってより、突風が目の前を通り過ぎた感じ。
それまで「マトリックス～」とか妙に冷静だったんだけど、急に現実感が戻ってきて、「え？なに？なんなの？」って焦った。
次の瞬間頭と背中が地面にぶつかって、一瞬気が遠くなった。
気がついたら、周りを人に取り囲まれてた。
怪我人と思われてたみたい。
すぐ隣に、さっき後ろに下がった女子高生がお腹押さえながら鼻と口から泡噴いてた。
黒い泡？
その近くに、さっき飛んできた黒くて、雑巾っぽい何かがなんか汁垂らしながら。
いや、泡も汁も黒じゃなくて血だった。
血って赤じゃなくて黒っぽく見えるんだ。
以下余談。
女子高生と飛んできた黒いの・・・課長（仮）は亡くなった。
課長が自殺しようとしたんだかよろけたんだか不明だけど、ホームから落ちそうになったところを、特急に上半身を跳ねられ、ホームに飛び込んできたんだ。
女子高生はそれをもろにお腹に受けて、内蔵破裂で亡くなったみたい。
すっげー苦しんでた。
自分が死ぬ時は絶対内蔵破裂だけは御免だと思ったぐらい。
自分は奇跡的（って駅員さんが言ってた）にも無傷。
正確に言うと頭にコブはできたけどね。
朝からマトリックスと銃弾を避けるイメージを持ってなかったら、今頃自分も課長にぶつかって死んで、ライヴも見逃してたと思う。
なんでその日、朝からイメージが離れなかったかは知らないけど、ありがとうマトリックス、ありがとうキアヌ・リーブス。
